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第11回 ここにも「アジア最大」:世貿天階 東福大輔

第11回 ここにも「アジア最大」:世貿天階 東福大輔

第11回 ここにも「アジア最大」:世貿天階

北京の東部には、90年代以降に政府主導で開発されたCBDと呼ばれる地区が広がっている。これは「中心業務地区(Central Business District)」の意味で、もともとは都市計画の用語であるために馴染みが薄いが、欧米、そして中国においては「都市における中央ビジネス街」を指している。このエリアには前述のCCTVなどの高層オフィスが集中しているが、その中でひときわ異彩を放つ商業施設がこの「世貿天階(シーマオティエンジエ)」である。

この商業施設の目玉は、なんといってもアジア最大を謳うLEDスクリーンだ。2つの街路を繋ぐ広場の天井を、長さ250m、幅30mのスクリーンで覆っているのだ。確かに、街路からもスクリーンがよく見える訴求力抜群な仕掛けで、人々は広場に次々と吸い込まれてゆく。ただし、その「誘い込まれた人々」を長時間滞在させ、買い物をしてもらう工夫がプランニング的に欠けているのが残念なところだ。それぞれのモールのテナントは、つまり広場側とは逆方向の建物内の吹き抜けに向かってプランニングされている。つまり、ショッピングモール自体はいたって普通の建物で、中で買い物をしていても、巨大スクリーンは感じることができない。このスクリーンの存在は、メンツを重んじ、巨費を投じて外ヅラを整えるが、蓋を開けてみるとその中身はいたって普通、という中国人自身を投影しているかのようである。

実際、スクリーンに多額の費用を投じた割には、有名テナントはあまり入居していない。この施設で一番良い場所と思われる角地には、スペインの巨大ファッションブランド、ZARAの北京一号店が出店し(ちなみに、この店舗の立ち上げはザラ・ジャパンが担当しており、立ち上げ当時は多くの日本人従業員がいた)、賑わっているのはその周辺くらいである。

大きなスクリーンがあるのは良いとして、重要なのはそこに映し出されるコンテンツだ。オープン当初は、海底や宇宙のCG動画を流しているだけのすぐに飽きがきてしまうもので、さすがハード先行の中国だなと感じていた。そのうちに、ショートメッセージを送ると、その内容がスクリーンに表示されるというコンテンツが加わった。この仕掛けは別段目新しいものではないが、スクリーン自体が巨大なため人気で、今では、恋人への愛の告白でスクリーンが埋め尽くされている状態だ。面白いのは、あるゲーム業界人がこのスクリーンを借り、オンラインゲームを楽しんだというニュースだ。半ば公共財化したスクリーンを独り占めしたいという独占欲と、自己顕示欲がないまぜになった欲望を、巨費を投じて実現してしまうあたり、すごいと言うしかない。

この施設を開発したディベロッパーの董事長は、近年、台湾出身の女優と結婚し、前妻から多額の財産分与を求める訴えを起こされたというゴシップが新聞を賑わせた。欲望渦巻くスクリーン、メンツ優先の建築、成功後のトロフィー・ワイフ…いろいろな意味で中国的な話題に事欠かない施設である。


写真1枚目:巨大LEDスクリーンに覆われた広場。
写真2枚目:広場の両側にあるモールは一般的なつくり。
map:<世貿天階>
北京市朝陽区。地下鉄6号線「東大橋」駅から徒歩9分、
または地下鉄1号線「永安 里」駅から徒歩11分


 

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