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上海の都市封鎖は現代の「チャーズ」、断固遂行を指示する習主席の狙いは何か(上) 日暮高則

上海の都市封鎖は現代の「チャーズ」、断固遂行を指示する習主席の狙いは何か(上) 日暮高則

上海の都市封鎖は現代の「チャーズ」、断固遂行を指示する習主席の狙いは何か(上)

 

中国のメガシティー上海市でゼロコロナ政策を進めるため、3月28日から大規模な「封城(ロックダウン、都市封鎖)」が実施され、ほぼ2カ月が経った。マンションの住人たちの中には、買い物にも行けず飢餓状態に置かれたり、監禁状態で精神異常を来たし自殺したりする人が後を絶たない。大学、工場では、怒りを爆発させて防護服を着た白衛兵と衝突するケースも見られる。だが、現実的には、ロックダウンしても感染患者数がゼロに近づくわけではない。それどころか、他の大都市、特に北京でも感染者数増が見られ、同じように封鎖の措置が取られ、経済活動に多大な影響を与えている。という状況から、ゼロコロナ政策の実効性が問われ、党内の一部から反発の声が上がっているが、習近平国家主席はあくまでロックダウン断固遂行の方針を変えないようだ。この結果、何やら党内対立、権力闘争にまで発展しそうな雲行きになっている。

 

<都市封鎖の思わぬ弊害>

中国の近現代史上で「卡子(チャーズ)」事件という出来事がある。1948年、旧満州の長春に立てこもっている国民党軍に対し兵糧攻めで打撃を与えるため、共産党軍が都市を完全包囲し、およそ150日間にわたってチャーズという検問所だけを設け、一般人の外との行き来を事実上封じた。この軍事作戦によって、国民党軍だけでなく、都市内にいた約50万人の一般市民が食料不足状態に陥り、30万人以上が餓死したという。今の上海もそれに似た状態に置かれている。マンション内の住民は、食料の共同購入などが認められ、かつての長春のように完全封鎖ではないものの、多くの人が満足な食生活を送れない。また、通勤、通学はもとより、定期的に通院していたり、突然怪我したりして緊急性の高い人まで病院に行きたくても行けない状態になっている。

 

上海は公共、商業施設が充実し、快適な生活環境があるため、他都市や地方の人間にはあこがれの地。不動産の高さを誇り、市民は鼻高々でその豊かさを満喫してきただけに、突然のチャーズ状態に戸惑い、怒り、精神に異常を来たす人が多く出た。ネット上には、飛び降り、首吊りなどの自殺の模様や、白衛兵と市民が揉み合う動画が拡散している。ある統計では、4-5月の1カ月間、ネット上で情緒不安定に関わるワード検索をする人が昨年の2・5倍に達したとのこと。中国版SNS「微信」によれば、4月以来、「未来に希望が持てなくなった」「何事にも興味、関心が湧かない」と訴える上海市民が4割を超えたという。いや、ある知識人は「4割程度?あり得ない。8割の人は憤り、頭がおかしくなっている」と話している。

 

中でも、マンション住民の怒りの矛先は、外出規制に当たっている白衛兵に向いている。白衛兵とは、出入り口に検問所を設け、住民に毎度PCR検査を課している監視隊のことで、証明書なしに強引に外出を試みる人を実力で抑え込んでいる。彼らの主力は、いわゆる警察の補完として恒常的に街中で住民の監視に当たる城管(都市管理従事者)と言われる人たちだが、そのほかには、仕事がなくなった工場労働者、いわゆる農民工も加わっているようだ。城管は日ごろから市民を威圧的に取り締まっているため、特に怒りの対象になりやすい。上海市閔行区の「金盛国際居住区」では5月7日夜、マンション住民が白衛兵と衝突、派手に殴り合う事件が起きた。原因は、高校生ぐらいの男子が白衛兵を罵ったため、怒った白衛兵がその男子の自宅の部屋まで押しかけ、強引に外に連れ出し、暴力を振るったことが発端だとされる。

 

いざこざは大学でも起きた。4月21日、名門の復旦大学で学生が暴徒化し、警察隊と衝突する事態があった。当局側は、1989年の天安門事件以来最大の「組織的な反党事件」と断定、警察部隊は催涙ガスを使って鎮圧したという。この事件はそもそも、学校当局が学生を監視するため、学内の至る所に監視カメラを設置したが、そのカメラの一つが女性の寮の浴室にも及んだことが発端だ。これに怒った学生たちが学校当局に詰め寄り、出動した警察部隊ともみ合った。発端は浴室へのカメラ設置だが、背景には、感染防止の封鎖措置に対する学生の鬱積がある。米華人メディアによれば、3月初め以降、上海にある60数校の高等教育機関で学内封鎖措置が取られた。72万人の学生のうち地方出身者の75%が学内の寮に閉じ込められたため、厳しい生活制限を受けた学生らのストレスが高じたようだ。

 

ロックダウンしていても、感染は収まらない。上海では毎日1万人以上の新規感染者が出ている。これは、封鎖状態にある中でも、ひそかに監視をかいくぐり、外に出ている人がいるからかも知れない。中国には「上に政策あれば、下に対策あり」という言葉があるように、夜間などは監視の目を潜り抜け、自由に動き回る人がいるのではなかろうか。こうした“闇の動き”によって感染拡大が進み、特に持病がある老人たちは危険な状態に置かれ、死者も増えた。4月22日、同市民生局関係者が葬儀所職員の話として明らかにしたところによると、「コロナの死者数は昨年同期の複数倍。4月1日から火葬場は毎日夜中の12時まで稼働。職員は24時間家に帰れない異常な超勤を強いられている」という。

 

そんな中、5月1日に上海の老人ホームでとんでもない事態が発生した。葬儀社職員2人が「新長征福利院」から袋入りの”遺体“を収容しようとしたところ、”遺体“が動いているのを察知した。そこで「この人は生きているぞ」と叫び、老人ホーム職員が顔の上のタオルを取り外すし、生存を確認したという。危うく火葬されそうになったのは75歳の女性。人命を粗末に扱った今回のケースは、街頭監視カメラで動画に収められ、拡散されたため、市民の怒りを買った。さらに全世界にも知られてしまい、上海市の恥にとどまらず、中国共産党・政府の威信まで損ねてしまった。このため、当局は挽回措置を講じざるを得ず、信賞必罰に出た。あっぱれの葬儀社工作人員には5000元の報奨金を出し、逆に、いい加減な死亡認定をした医師に対しては医師資格をはく奪し、その上刑事罰も問う姿勢を示した。”遺体“として引き渡した無責任な福利院の院長も免職となり、党規違反の処分を受けたという。

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