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第571回 対ロシア非難で苦悩する東南アジア諸国 伊藤努

第571回 対ロシア非難で苦悩する東南アジア諸国 伊藤努

第571回 対ロシア非難で苦悩する東南アジア諸国

第二次世界大戦後、欧州では最大規模の戦火となったロシアによるウクライナ軍事侵攻に対し、欧米など西側諸国はほぼ一致・結束してロシアの国際法違反、国連憲章違反を糾弾し、かつてない厳しい制裁を科しているが、それと好対照をなすのが、軍事大国のロシアに対するアジア各国の慎重姿勢だ。

ロシアとは「準同盟関係」にもあると形容される権威主義体制下の中国に加えて、長年にわたり非同盟を掲げながらロシアとの関係が緊密なインドというアジア域内の2大国が欧米諸国の厳しい対ロシア非難に簡単に与しないのは、両国の伝統的な外交スタンスから想定内のことだが、日本や主要7カ国(G7)と歩調をそろえるのが韓国やシンガポールにとどまっていることには、やはり首を傾げざるを得ない。誤解を恐れずに言えば、中国やロシアといった大国の「横暴」を目にしても、正面切って批判の声を上げられない「中小国の悲哀」といったものまで感じてしまうのは筆者だけだろうか。

岸田文雄首相が4月末から5月初めの連休を使って、インドネシア、ベトナム、タイの東南アジア主要3カ国を回った理由の一つは、この地域の国々も、ロシアのウクライナ侵攻という現行の国際秩序を揺るがす暴挙に対しては結束して臨むよう促すためだった。2月下旬のロシアのプーチン政権によるあからさまな隣国への侵攻後、国連総会の対ロシア非難決議や国連人権理事会での理事国資格停止決議をめぐり、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国の間では棄権したり、反対したりする国が相次いだ。この中には、昨年2月の電撃的クーデターで民主的な政権を理不尽に打倒した軍事政権下のミャンマーも含まれる。

日本はアジアで唯一のG7メンバーだが、わが国政府部内でも、「欧米に同調しない国があれだけ出ると、『日本はアジアのリーダー国なのに、外交上、何をしていたのか』とみられる」と懸念する声が出たという。「力による一方的な現状変更」がアジア地域でも今後、起きかねないだけに、そうした事態を阻止するため、アジアの民主主義国のリーダーを自他ともに認めるわが国が、国際協調の重要性を説く必要はかつてなく強かったと言えるだろう。

しかし、外相を長く務め、外交には一家言を持つと自負する岸田首相が訪れた東南アジア3カ国ではいずれも、「即時停戦と人道支援の必要性では一致」(ベトナム)、「主権や領土の一体性の侵害、大量破壊兵器による威嚇や使用への反対では一致」(タイ)などと、武力行使や力による現状変更を認めないという点は何とか確認できたものの、ロシアを名指しする批判は避ける姿勢は堅持し、厳しい制裁を科す欧米との大きな温度差は変わらなかった。

政治体制が違えば、経済の発展段階も異なる東南アジア各国はそれぞれ、域内大国の中国、そして(ベトナムなどのように)歴史的、軍事的に関係が深いロシアとの間で、「独特の間合い」(外務省高官)を有しており、そうした微妙な間合いを一挙に崩しかねない一方的な非難には踏み切れない国内事情があるのも確かだ。また、人権問題やクーデターなどをめぐって一部の東南アジア諸国に対して厳しい批判を加えたり、一方的に制裁を科したりする欧米に対する感情的な反発や不満も、当事国側には少なからず存在する。

インドネシアは主要20カ国・地域(G20)、タイはアジア太平洋経済協力会議(APEC)の今年の議長国であり、1年間をかけて関連する閣僚会合や首脳会議を取り仕切る立場だが、重要な国際的な協力組織・機関の輪番の議長国として、軽々しく名指しの大国批判には踏み切れないという外交上の判断もあったのだろう。岸田首相の東南アジア3カ国歴訪は、わが国にとって重要なアジア外交のかじ取りの難しさを改めて浮き彫りにした。かつて、日本が国連安保理改革の提案を行った際に、ASEAN加盟国の中で賛同する国が1カ国がなかったことも苦々しいエピソードとして思い出される。