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第569回 国連安保理の改革で欧州の小国が一石 伊藤努

第569回 国連安保理の改革で欧州の小国が一石 伊藤努

第569回 国連安保理の改革で欧州の小国が一石

「世界の平和と安全」に大きな責任を持つ国連安全保障理事会の機能不全が指摘されて久しい。その元凶は、第二次世界大戦を勝利に導いた主要連合国の5カ国(米、ソ連→ロシア、英国、フランス、台湾→中国=「→」の印は国際情勢の変化に伴い、代表権を持つ国が移ったことを示す)が「戦勝国の特権」として、常任理事国メンバーとなり、「P5」として知られる米・英・仏・中・ロの5カ国だけが安保理会合で決議案を葬り去ることができる拒否権が付与されていることだ。前大戦での敗戦国であるドイツや日本のような戦後に経済大国となった国は、国連憲章の旧敵国条項によって、現状では常任理事国の地位を得ることはできない。

第二次大戦後、長く続いた東西両陣営が対立する冷戦時代にも当時のソ連や米国、中国などがそれぞれ自国の立場、国益を最優先させる形で拒否権を乱発したものだが、基本的な構図は1990年代初頭以降のポスト冷戦期の現在も変わっていない。国連安保理改革の必要性が多くの国から叫ばれながら、取り組みが遅々として進まないのは、特権を享受する常任理事国が既得権益を失いたくないことが最大の理由だろう。

世界各地で起きている地域紛争での停戦決議案や深刻な人権侵害が横行している軍事政権下のミャンマーなどの国々を非難する決議案に対しても、紛争当事国やその指導部との関係が深いロシアや中国が拒否権を行使し、事態の平和的解決の取り組みの障害となっている。冷戦後の欧州における最悪の人道危機を招いている現下のロシアのウクライナ軍事侵攻でも、重大な国際法違反、国連憲章違反として糾弾されたロシアが安保理での非難決議案に拒否権を行使し、決議案を葬った。このため、欧米諸国が中心となって法的拘束力のない国連総会決議を圧倒的多数の賛成で可決し、ロシアのプーチン政権に対する国際社会としての強い抗議の意思を示さざるを得なかったのは周知の通りだ。

良識のある多くの国々や平和を願う世界の多くの人たちが国連安保理の改革の必要性を訴えているが、そうした折、ニューヨークにある国連本部を舞台に興味深い動きがあったので紹介したい。

欧州の小国リヒテンシュタインが4月中旬、国連安保理で常任理事国が拒否権を行使した場合、自動的に総会会合での説明を求める総会決議案を準備していることが明らかになった。近々、正式に提案する見通しで、米国は早速、決議案への支持を表明した。

決議案は、総会議長に拒否権発動から10日以内に総会会合を招集するよう義務づけ、安保理に対しては会合開催の72時間前までに、拒否権行使に関する報告書の提出を求めている。ロシアが拒否権を盾にウクライナ侵攻をめぐる安保理の意思決定を阻止している現状を踏まえ、拒否権行使国に「説明責任」を負わせ、乱用を抑制する狙いがあるという。米国やオーストラリア、カナダ、ケニア、韓国など40カ国以上が総会決議案の共同提案国となっているそうだ。
 
永世中立国のスイス、オーストリアに国境を接する欧州内陸国のリヒテンシュタインは立憲君主制の公国で、面積は160平方キロ(日本の小豆島にほぼ相当)、人口はドイツ系住民を中心に4万人弱という小さな国だ。非同盟中立を国是とし、一部を除き、外交はスイスが代行しており、1990年に国連に加盟した。

筆者は、リヒテンシュタインが国連に加盟する数年前にスイスのチューリヒに駐在しており、特派員としてカバー地域ともなっているこの小国の首都ファドゥーツにしばしば取材で出向いた。首都と言っても、中世の趣きが残る静かな山あいの町だ。外国のメディアに取り上げられることが少ないこの欧州の小国の国連外交には目を見張らさせられるが、国連安保理改革に長年にわたって取り組むわが国も遠方に得難い友邦を得たものだ。「山椒は小粒でもぴりりと辛い」という譬え(たとえ)を思い出した。

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