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第576回 フィリピン大統領選と東南アジアの民主化 直井謙二

第576回 フィリピン大統領選と東南アジアの民主化 直井謙二

第576回 フィリピン大統領選と東南アジアの民主化

5月9日に行われたフィリピン大統領選で元マルコス大統領の長男、フェルディナンド・マルコス元上院議員が圧勝した。1986年2月ラモス元参謀総長ら軍が起こしたクーデターをきっかけに起きたピィープルパワー、別名エドサ革命を取材した筆者はフィリピン政界の目まぐるしい変化に戸惑うばかりだ。

独裁と汚職というイメージに加え、政敵のベニグノ・アキノ上院議員の暗殺を指示したとの疑惑から国民の支持を失い大統領選に圧勝しながら軍のクーデターをきっかけに環状道路のエドサ通りを何十万もの民衆が埋めつくし、イメルダ夫人と共に一家は大統領官邸であるマラカニアン宮殿を追われた。その直後のマラカニアン宮殿を取材し、3000足の靴として有名になったイメルダ夫人の靴も見つけたが、実際は3分の1程度だった。

アキノ大統領の勝利集会はルネタ公園で開かれ30万人の民衆で埋まった。民主化が達成され高度経済成長を謳歌する東南アジア諸国に追いつけるとの喜びが参加者の表情からうかがえた。

マルコス元大統領はアメリカに亡命したが、亡命直前マラカニアン宮殿のバルコニーで支持者を前に家族と共に最後の演説を行った。少年だった右端に立つ長男が36年後父親同様大統領に就任することなど想像もできなかった。

エドサ革命は初めてテレビで生中継された革命といわれ、アキノ政権は外国人記者に謝礼として革命の経過を綴った分厚い本『BYANKO』(民衆)とメダルを贈呈した。(写真)

 

革命後の大統領の顔ぶれを見ると元軍人,世襲、俳優と続いた。36年の年月でエドサ革命を知らない有権者が増えたことなど新大統領の勝因についてはすでに報じられているので触れないが、選挙戦も時代の流れを感じる。

故マルコス元大統領の選挙戦では投開票に疑惑が持ち上がり革命を誘発した。筆者もマニラ郊外の小さな小屋で開票されないまま隠された投票箱を見つけ投開票の疑惑をレポートしたことを覚えている。その後不正選挙を防ぐためのNGO、ナムフレルによる投票監視が始まった。今回の大統領選ではSNSによるフェイク情報が拡散しているという指摘があり、選挙の不正疑惑にも時代の流れを感じた。

エドサ革命を発端にタイやインドネシアなどにも民主化の波が押し寄せアジア独特の開発独裁に終止符が打たれた。新大統領の政策は独裁が目立った前政権や父親の政策を引き継ぐとみられ、民主化に行き詰まる他の東南アジアへの影響も懸念される。

《アジアの今昔・未来 直井謙二》前回
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