1. HOME
  2. 記事・コラム一覧
  3. コラム
  4. 第579回 海外に行けずとも身近にある「世界の窓」 伊藤努

記事・コラム一覧

第579回 海外に行けずとも身近にある「世界の窓」 伊藤努

第579回 海外に行けずとも身近にある「世界の窓」 伊藤努

第579回 海外に行けずとも身近にある「世界の窓」

100年に一度とも言われる厄介な疫病である新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)が始まって3年近くとなるが、この間、世界各国の渡航規制や感染防止対策も厳しく、海外旅行や外国出張の機会はほとんどなくなってしまった。海外旅行以外でも、会社員の間での在宅勤務の普及をはじめ、親しい友人や仲間との飲み会がめっきり減るなど、普段の生活が一変した人たちが少なくない。そんな昨今、海外旅行に取って代わることはできないものの、外国の大自然や珍しい野生動物の生態、世界各地の街歩き、都会あるいは田舎で暮らす異国の人たちの暮らしぶりを紹介するテレビ番組が現在は数多くあり、自由な時間が増えた筆者のような身にとって、ありがたいご時世でもある。

そうした中で、国際情勢をウオッチする仕事柄、大変重宝しているのが「NHK BS1」でウイークデーの早朝の時間帯に放送されている世界の20近い国・地域の主要テレビ局のニュース番組だ。通常は午前5時から9時前までの4時間近くにわたって放送されるこの世界各国のニュース番組の名称はそのものずばりの「ワールドニュース」で、この番組に付き合えば、世界各地で起きている大事件や大事故、紛争から自然災害、その国ならではの市井の話題などがたちどころにして分かることが請け合いだ。

日本との時差の関係で、前日の英公共放送BBCの夜のニュース番組から始まり、シンガポールのCNAテレビ、韓国のKBSテレビ、中国国営のCCTV、上海に拠点を置く東方衛視、香港のTVBテレビなどがそれぞれ5分―10分程度、同時通訳と現地語の字幕付きで放送されている。字幕が現地語となっているタイとベトナムのニュース番組も紹介される。毎日見ていると、海外のテレビ局のキャスターたちが身近に感じられるようになり、てきぱきとしたニュース紹介の進行ぶりと併せ、国や地域ごとにニュース報道の特徴のようなものもあって飽きることはない。

午前5時台はこのようにアジア地域のテレビ局のニュース番組が中心だが、午前6時台から7時台にかけてはフランスのF2、ドイツのZDF、ロシア国営テレビなど欧州主要国のテレビ局のニュース番組が登場する。今年2月にウクライナ戦争が勃発してからは、これまで目にすることはなかったウクライナ公共放送の戦況報道もほぼ連日放送されるようになった。時差の関係から、世界のニュースの主戦場である米国は日本時間の午後4時から1時間近くにわたり、公共テレビPBSと3大ネットの一つであるABCテレビの夜のメーンニュース番組が相次いで放送される。

こうしてみると、NHKのBSチャンネルで「ワールドニュース」に接していれば、全世界のさまざまなニュースが茶の間に居ながらにして、貴重な映像とともに簡単に視聴できるわけだ。話が前後するが、午前8時台は、それまで3時間にわたって放送されてきた世界各地のテレビ局のニュース番組の総集編の形で、番組の名称は「キャッチ! 世界のトップニュース」となる。「キャッチ!」はニュースをつかむというそのものずばりの意味合いを込めながら、ニュースの本質を捉えるという含意もあるようで、NHKの国際情勢に明るい、特派員経験があるキャスターと女性アナウンサーの2人(いずれも1週間ごとの交代制)がその日の重要ニュースを10本前後ピックアップし、改めて取り上げる海外のテレビ局のニュース映像を紹介しながら日本語で手際よく解説していく。

これまで紹介してきたNHKのBS番組「ワールドニュース」を見ていて興味深いのは、世界の重要ニュースの背景がそれぞれのお国柄を反映して多様な視点から分かるだけでなく、ニュース映像で海外各地の都市や地方の風景も映し出され、外国の人々の様子や生活ぶりの一端をうかがい知ることができる点だ。東南アジアのタイやベトナム、シンガポールは、筆者の海外駐在時代にさまざまな取材活動で訪れたり、長く暮らした国だが、これらの国のニュース番組で登場する。

この地域の都市や地方の現在の様子を時折目にすることがあり、懐かしさもわく。海外に行けなくとも、身近に接することができる世界各国の主要テレビ局のニュース番組は、激動が続く国際社会の今を知ることができる貴重な「世界がのぞける窓」と言えるかもしれない。



タグ

全部見る