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第588回 軍用機で覚せい剤を摘発するタイ 直井謙二

第588回 軍用機で覚せい剤を摘発するタイ 直井謙二

第588回 軍用機で覚せい剤を摘発するタイ

2022年10月、タイ東北部の保育園に男が押し入り銃を発砲、子供を含む30人以上が死亡するという痛ましい事件が起きた。事件後、元警察官の男は妻子を殺し自殺した。警察官だった犯人は覚せい剤使用の疑いで6月に解雇されており、事件も覚せい剤が絡んでいるとみられている。

殺害された息子もこの保育園に通っており男は礼儀正しかったという。
タイではアヘンやヒロインが蔓延していたが、取り締まりの困難な覚せい剤に置き換わってきている。アメリカも含めた合同軍事演習「コブラ・ゴールド」は旧ソビエトなどを意識し共産主義勢力に対抗するために始まった。そして最近では自衛隊も参加するため日本でも注目が集まっている。

共産圏の崩壊で訓練も変わった。共産主義の浸透よりも中国の海洋進出やアジアから流入する覚せい剤が脅威になっている。中部タイの軍の町ロッブリにある覚せい剤取締を専門とするパラシュート部隊の訓練を取材した。

覚せい剤は国境を越えてタイ国内に流入するばかりでなく、国内でも取り締まりを避けるため覚せい剤の製造機器を大型の車に設置し走行しながら覚せい剤が製造されている。ケシ畑と異なり、製造拠点が移動するので取り締まりが難しい。このため追跡も機動性が要求される。

パラシュート部隊は麻薬犬と一体になって犯罪者の摘発に乗り出す。犯人や製造車を見つけ次第空から急襲して取り締まる。地上から訓練を取材するだけでは迫力に欠けるので軍用機に同乗することにした。恐怖に耐えながらカメラマンと軍用機に乗り込み、麻薬犬を連れた10人ほどの兵士と共に離陸した。

高度はおよそ1000メートルになると、犯罪者の逃げ回る車を発見したとの想定で兵士は5メーターほどのロープを出し、麻薬犬と自分とをつないだ。上官の命令を受けると軍用機のドアが開かれ兵士は麻薬犬を抱いて次々に空中に飛び出した。

筆者も軍用機のシートベルトを外し、カメラマンと共に兵士に体を支えてもらいながら立ち上がり轟音のなかでレポートをした。「ワー、おっかねー」と筆者の余計な叫び声もレポートに入る。兵士は空中で麻薬犬を静かに下におろし着陸態勢を整え、(写真)着陸が近づくとロープを操りながら最初に麻薬犬を安全に着地させた。続いて兵士も着地するとロープを外し麻薬犬は犯人と車を急襲する。麻薬犬が覚せい剤を見つけ犯人に襲いかかると兵士が追いつき犯人を拘束する。取材中に出た汗はほとんど冷や汗だった。


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