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第586回 一帯一路で苦しむスリランカ 直井謙二

第586回 一帯一路で苦しむスリランカ 直井謙二

第586回 一帯一路で苦しむスリランカ

インド洋の真珠といわれる観光とセイロンティーで有名な紅茶の生産で経済を支えるスリランカの経済が危機に瀕している。1948年の独立以来、初めてデフォルトに陥った。対外債務は510億ドルで、そのうち110億ドルが中国の習近平政権の一帯一路プロジェクトに費やされたという。

2004年のスマトラ沖巨大地震の津波は、スリランカも襲い観光産業に大打撃を与えた。その直後に大統領に就任したマヒンダ・ラジャパクサ氏が観光依存からの脱却を目指し、インフラ投資に舵を切った。ラジャパクサ一族の手でスリランカは長い間ヒンズー教徒のタミル人と仏教徒シンハラ人の間で起きていた内戦が終結し、海外投資も期待された。

一帯一路を進める中国に依存を深め、産業構造の改革を図るラジャパクサ政権は日本やインドとの間で覚書を交わしたコロンボ港の工事発注も反故にして中国企業が行うことを一方的に閣議決定した。

結局は、債務の返済が膨らんで中国に運営権が譲渡される債務の罠が懸念されている。そしてコロナ禍がさらにスリランカを苦境に追い込んだ。

上座部仏教の発祥の地であり海や山の大自然を持つ観光の国スリランカは再び打撃を受けた。物価高騰や停電などにより市民の不満が爆発した。3月には治安当局とデモ隊が衝突し非常事態宣言や夜間外出禁止令が発令された。

しかしますます苦しくなる生活に市民の怒りは収まらず、7月にはデモ隊が大統領官邸を占拠するようになった。ゴダバヤ・ラジャパクサ大統領は出国し、多くの要人が辞任した。再建は容易ではない。

産業の原点である観光と紅茶生産に回帰することも必要だ。特にどちらかといえば観光であろう。紅茶の生産は中国やインドという大国でも行われている。もともと宗主国であるイギリスが紅茶の増産を目指してタミル人を入植させて始めた歴史を持つ。

 

20年ほど前、スリランカ各地を訪ねた時、紅茶の生産地であるヌワラエリアでユニークなホテルを見学した。(写真)外観もさることながら部屋もどこか工場の面影を残している。ガイドの話では以前は紅茶生産の工場だったが、観光業がより盛んになりホテルに改造したという。

中部には大きな岩山に古城跡が残るシーギリアロックがあり大勢の観光客が訪れていた。特に上座部仏教の国タイやミャンマーの人々にとってスリランカは上座部仏教発祥の地であり一度は訪れたい聖地でもある。

習近平政権の一帯一路のセールストークにのって足元の資源を忘れ、債務の罠に落ちる国が増えることが懸念される。

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