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第593回 昔の特派員仲間の「ちょっといい話」 伊藤努

第593回 昔の特派員仲間の「ちょっといい話」 伊藤努

第593回 昔の特派員仲間の「ちょっといい話」

3年余りも続いた新型コロナ禍の行動制限がようやく解除され、マスク着用も自己責任で行えるようになった3月中旬のある一夕、25年ほども前のタイ駐在時代の特派員仲間が集まり、久しぶりに親交を温めた。「バンコク会」と呼ぶこの集まりは、前回はコロナ禍が起きるかなり前のことだったので、今回はかれこれ5年ぶりの顔合わせとなった。

以前は、10人ほどいる常連メンバーも今よりは幾分若かったのでかなりの頻度で集まっていたが、四半世紀ほど前の同業者の親睦会ということで、時がたつにつれ、開催の間隔があくのは致し方ないことだろう。ともあれ、海外での取材活動の拠点とした東南アジアの都市名を冠した同業者の集まりが長く続いている理由の一つは、現役の第一線記者時代からフットワークが良いことで知られる在京民放テレビ局出身のMさんがいつも面倒な幹事役を買って出てくれるからである。

さて、都心に近いタイ料理レストランに集った7人のうち、定年退職組は3人、年齢的にぎりぎりでの現役組は4人だったが、現在の社会的な立場の違いにもかかわらず、1990年代後半の一時期、同じ異郷の地で同じような報道の仕事に従事した同業者ということもあって、話題はたちまち、当時の思い出や取材上の苦労話、失敗談などが次々と飛び交い、時空を超えてあっという間に昔に戻ることができるのは何ともうれしい。

そのような会話ややりとりの中で、現役組の2人の口から近況報告ということで「ちょっといい話」を聞いたので、本欄でも簡単に紹介させていただきたい。

一つは、幹事役のMさんが長年勤めたテレビ局を早期退職し、転職した海外での人道支援活動を国際的に展開する非営利法人(NPO)の広報担当部門での仕事の傍ら、温めていた夢を実現させる形で、日本に観光で訪れる外国人旅行者向けの観光ガイド資格を取得したことだ。正式名称は「全国通訳案内士」(通訳ガイド)といい、英語力に加え、日本の地理、歴史・文化、一般教養の4科目で合格点を取らなければ受からないという難関の国家試験に見事パスしたそうだ。

テレビ局に入社する前の学生時代は部活動で伝統のある英語サークル(ESS)に所属していたほどだから、Mさんの英語力は抜群だとはいえ、還暦を迎えて転職先での仕事をこなしながら、観光ガイドの国家試験に合格するにはかなりの事前準備が必要だったことだろう。二足のわらじとなる観光ガイドとしてデビューするMさんは近く、スケジュール調整をした上で、地球の裏側の南米ブラジルから桜の季節の日本にやって来るご夫婦を2泊3日の日程で日光に案内するそうだ。

もう一つの「ちょっといい話」は、新聞記者から私立大学医学部の一般教養担当教授に転じたTさんの近況報告だった。新聞記者時代に英文記事も書いていたTさんは得意の語学力を生かして、大学では留学生を含む「医者の卵」の医学生向けの教養科目を担当しているが、今年の医師国家試験で教え子の留学生15人が全員、合格したことを教えてくれた。「国家試験の合格発表はきょうだったので、留学生たちの合格を知ったのもこの集まりのちょっと前のことなんですよ。きょうは本当にうれしい1日になりました」と話すTさんの表情は喜びに満ちていた。

Tさんによると、勤務先の私立大医学部で学ぶ留学生の中には、政治状況が混乱しているミャンマーの出身者など、さまざまな生活上の困難を抱えて異国で勉学に励んでいるアジア地域の医学生が多いそうで、日本語で出題される医師国家試験に合格するには日本人学生以上の努力が必要だったに違いない。たまたま、翌日の新聞に掲載されていた医師国家試験の合格発表に関する記事を目にしたが、Tさんが勤務する私立大の合格率は極めて高かった。

タイ料理レストランでの「バンコク会」の面々の懇親会の翌日、やはり在京の民放テレビ局に長く勤務する紅一点のNさんから、幹事役のMさんを含む参加者の元に次のような全員あてメールが届いた。

「昨日は、いきいきとされている皆さんを拝見し、私も色々とチャレンジしていこうという思いを新たにしました。今後もますます、お元気で、それぞれの場でのご活躍、祈念しております。」

Nさんの感想に筆者も全く同感だが、勤務先は違っても職業や現場体験を同じくした昔の同業仲間の付き合いは今後とも続けていきたいものだと改めて思った。

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