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第600回 フィリピンの「オレオレ詐欺」 直井謙二

第600回 フィリピンの「オレオレ詐欺」 直井謙二

第600回 フィリピンの「オレオレ詐欺」

フィリピンを拠点とした特殊詐欺グループの日本人36人が2019年に拘束された後、摘発を免れたメンバーが新たに拠点を作り、殺人や強盗などさらに凶悪な犯行を続けていたことが大きなニュースになった。

特殊詐欺はフィリピンでは古典的な犯罪だ。筆者も30年以上前にオレオレ詐欺に遭遇し危機一髪500ドルの被害に遭うところだった。80年代後半は黄色い革命や若王子事件でフィリピン取材が多かった。当時、マニラに支局はなく、駐在するタイのバンコクから毎月マニラに通っていた。

定宿のホテルのスタッフからチェックアウトすると「いってらっしゃい」チェックインすると「お帰りなさい」と挨拶されるほどだった。チェックインの手続きをしているとスタッフが筆者あてに電話が入っていますという。着いたばかりなので東京のデスクと思ったが、電話の主は見知らぬフィリピン人の男だった。

「いまマニラについたのか。言ってくれればニノイ空港まで迎えに行ったのに他人行儀だな」と親しげだがやや非難する口調だった。誰だか分からず申し訳ない気持ちで戸惑っていると「おいおい俺の声をわすれたのか」と畳み掛ける。「お前の親しいフィリピン人の友人の名を上げてみろよ」とからかうように問いかけてきた。思わず「Jか?」というと「違うよ」と答えさらに問いかける。「Nかい?Kかい?」と続けると3番目の「カストロ」という答えに反応した。「そうだよ。俺を忘れてしまったのか」と落胆の声が返ってきた。

名前を筆者に言わせれば声では怪しまれないし同時に声を忘れて申し訳ないという気持ちを起こさせる手口だ。

電話の主は「友人が財布を忘れて繁華街で買い物して今困っている。500ドルだが貸してやってくれないか」というとホテルから徒歩で5分ほどの店の名前をあげた。(写真)

助けたい気持ちと疑いの気持ちが交錯したが、結局放置しておいた。すると、夕方再び男から電話があった。「まだ俺の友人は店にいる。俺はお礼をするつもりでホテルの近くのレストランで返金の500ドルと食事を用意して待っているのに」という。

そこで「お前のいるレストランに行って返金用の500ドルを受け取り、困っているお前の友人のいる店に届けてやるよ」と答えた。「どうもありがとう」という言葉と共に電話は切れ二度とかかってこなかった。

犯罪集団には筆者がチェックイン中であることを知らせたホテルスタッフ、金の受け子それに電話の主と少なくとも3人が絡んでいるはずだ。


《アジアの今昔・未来 直井謙二》前回
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