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第598回 混迷を極めるミャンマー情勢 直井謙二

第598回 混迷を極めるミャンマー情勢 直井謙二

第598回 混迷を極めるミャンマー情勢

ミャンマー軍は今年4月北西部ザカインにある反体制の村を空爆した。この爆撃で少なくとも100人以上が死亡したという。軍事クーデターから1年以上たつが、少数民族と共闘する反政府勢力の活動も依然として活発であり、事態の収拾の見通しは立っていない。軍事政権の経済運営と少数民族の武力も加わり、混迷の要因になっている。

1988年以前のように軍政は経済運営を含めすべての権限を握った。ビルマ式社会主義を標榜し、軍が経済運営も担っていたネ・ウイン時代を想起させる。利益を上げることが最大の目標のはずの経済が武力を背景にした軍に仕切られた結果「武士の商法」がまかり通った。

銀行も信用できないことから印僑や華僑を中心に利益がでるとタンス預金にしたため経済が回らなくなった。すると軍政は突然、最高額紙幣を無効にした。経済的な混乱をよそに最高額紙幣を所有するのは印僑や華僑で、貧しいビルマ人は影響を受けないというわけだ。

そして、外国資本が投資目的で外資を持ち込むといきなり税金をかけるのだ。外資はこれからビルマで利益を上げるはずで不正に脱税しないようにあらかじめ徴収するというのが軍政の言い分だが、儲かるかどうかは未知数の外資はリスクが高く投資を控える。筆者も90年代の末、現地記者の給料は税を避けるため銀行に振り込まず、入国して現金で手渡していた。逆戻りした軍政の経済運営で撤退する外資が増えている。

一方、古来中国山岳部から移住してきた少数民族はビルマだけでなくタイやラオスそれにベトナムにも多数住んでいる。ベトナムなどでは対米戦争勝利に導いたホーチミンルートの運用に山岳民族が重要な役割を果たしたことなどから少数民族に敬意を払っている。
武装して政府軍と戦火を交えているのはビルマだけだ。

カレン族やシャン族それにモン族など多くのビルマの少数民族を取材したが、コウカン族を除いて激しい反ビルマ意識をむき出しにした。(写真)イギリスが植民地支配を効率的に行うため主にビルマ族が住む平野部を「管区ビルマ」、少数民族が多く住む山岳部を「辺境地域」として分離し双方の交流を遮断した。「辺境地域」の少数民族に対しては従属を条件に自治を許した。

このためビルマ族と少数民族の軋轢が独立後も残っている。また、現在33年刑期の有罪判決を受けている民主化指導者スーチー氏の今後の指導力ついて疑問を持つ支持者が増えている。ミャンマーは内戦の危機と経済破綻で歴史上最悪の事態に直面しそうだ。


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