第605回　「現下の世界情勢・七不思議」（上）

2020年初めから世界各国で猛威を振るった新型コロナウイルスのパンデミック（世界的流行）やロシアが2022年2月に隣国に軍事侵攻したことに伴うウクライナでの戦火の長期化など、数年ほど前にはほとんど予想もしていなかった100年に一度ともいわれる疫病、21世紀に入ってからの大規模戦争が相次ぎ、国際情勢の先行きを見通すことの難しさを痛感する。

もちろん、新型コロナの感染拡大にせよ、欧州の一角で起きたウクライナ戦争にせよ、一部専門家の間ではそうしたことが起こり得るリスクや可能性についての警告はなされていたとはいえ、やはりそれが現実のものとなると、このような突発的な事態に「なぜ？」と自問自答したり、驚いたりしたという人が大半だろう。人間には計り知れない古代の建造物や山河の自然の造形など、大きな謎や驚きを意味する「世界の七不思議」という言葉があるが、それをなぞる形で、日ごろ国際情勢をウォッチしている筆者にとっての大きな疑問の謎解きがなかなかできないでいる「現下の世界情勢・七不思議」を順不同に取り上げ、簡潔に紹介させていただきたい。

変化の激しい国際情勢を見ていて「七不思議」の一番手としてまず思い浮かぶのは、軍事的に圧倒的に劣勢にあるウクライナがなぜ、ロシアによる激しくかつ執拗なまでのミサイル攻撃などを受けながら、失地拡大を食い止め、領土奪還のための反転攻勢を継続できているのかという点だ。この素朴な疑問に対する答えとしては、戦時指導者となったゼレンスキー大統領による「独立と主権の維持、領土保全」の重要性を一貫して訴え続ける国民鼓舞のぶれない姿勢への共感・支持とともに、欧米諸国などからの大量の武器支援があるためだと指摘できよう。

ウクライナ国民と国際社会の幅広い支持の獲得が、いわれなき侵略を受けた側であるウクライナがロシアに勝利を収める重要な柱となるが、戦闘の長期化でいまだに停戦・和平交渉の道筋が全く見えない中で、「戦場での勝利しか戦争終結の可能性はない」とするウクライナ現政権の確固たる姿勢が奏功するかどうか。2014年に併合された南部クリミア半島の奪還を含め、ウクライナがロシアを撤退に追い込めば、後世の歴史家は「ウクライナ戦争の不思議」をさまざまな角度から解明しようとするだろう。

ウクライナ戦争との絡みで二番目となる驚きに近い不思議は、ロシアが第二次世界大戦後、欧米諸国から最大規模の厳しい経済制裁などを科されながらも、国内経済の悪化を最低限に食い止め、軍事侵攻後も経済成長で前年比プラスを維持していることだ。もちろん、その理由としては資源大国であるロシアが西側諸国への輸出が激減した石油や天然ガスの販路をアジアの経済大国である中国やインドに振り向け、西側市場での減少分を相殺していることや、第三国を経由した取引など制裁の抜け穴を巧みに使い、禁輸対象の外国製品の輸入で制裁の影響を極力少なくしていることが指摘されている。

ロシアは大量の核兵器を保有する軍事大国とはいえ、国内総生産（GDP）規模ではイタリアや韓国などとほぼ同水準の世界ランキング10位前後の経済中進国であり、そのような国がいつまで巨額の戦費がかかるウクライナでの軍事作戦に予算を振り向けることができるのか。ウクライナ戦争の行方を大きく左右することになる、解明が難しくかつ謎めいた不思議の一つである。

三番目に思い浮かぶ不思議は、ロシアと同様に国際的に孤立している北朝鮮が慢性的な経済不振にあえぎ、国民の多くが食料不足で飢餓状態にあり、餓死者が出ているとされるにもかかわらず、なぜ巨額の資金が必要な核・ミサイルの開発・生産を続行し、日本や韓国、米国を威嚇する弾道ミサイルの頻繁な発射ができているのかという点だ。

ロシアと同じく、北朝鮮に対しても国連安保理決議などで極めて厳しい制裁が科されているが、制裁の抜け道を使って石油などの違法な密輸（北朝鮮船舶が洋上で物資を積み替える「瀬取り」）を行っているとの報道があるほか、労働者の海外への出稼ぎの上前をはねるなど、あの手この手を駆使しているとはいえ、そのような形での外貨獲得はたかが知れている。

近年は、北朝鮮のハッカー集団が外国のコンピューターシステムに侵入し、暗号資産などを盗んでいるといった情報が相次ぐが、この独裁国家の核・ミサイル開発を支える巨額資金がどのように調達されているかは大きな謎のままとなっている。（この項、続く）

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