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第603回 ひのき舞台で大活躍の日本人アスリートに思う 伊藤努

第603回 ひのき舞台で大活躍の日本人アスリートに思う 伊藤努

第603回 ひのき舞台で大活躍の日本人アスリートに思う

2020年初めから3年余り続いた新型コロナウイルスの感染拡大がようやく終息に向かい、多くの人々が日常生活を取り戻した今年は、「コロナ禍に一区切りつけた年」として、今後長く記憶に残ることになろう。それと併せて、今年を特徴づけることがあるとすれば、日本のさまざまなスポーツ界やトップアスリートたちが大きなひのき舞台で相次いで快挙を成し遂げていることを挙げることができるのではないか。

野球界では3月、世界一を決める国別対抗戦「ワールド・ベースボール・クラシック」(WBC)で日本代表「侍ジャパン」が一次リーグを含め全勝で3大会ぶり3度目の優勝を飾ったほか、WBC大会後、米大リーグの所属球団に戻った代表チームのメンバー(投打二刀流の大谷翔平、強打者の吉田正尚、ベテラン投手のダルビッシュ有ら)を含む多くの日本人大リーガーが例年以上に活躍している。

最近では、マイナーなスポーツと日本ではみられていた男子バスケットのワールドカップ(W杯)で、日本代表「あかつき(暁)ジャパン」が欧州の強豪国を初めて破るなどの快進撃でアジア勢で首位となり、来年のパリ五輪への自力出場を決めた。海外の格上国に比べ、身長や体格で劣る代表選手が少なくない日本チームが俊敏なパスワークや力を入れていた3点シュートを次々と決めるなど、スピード感ある試合の攻防・展開に目が離せないバスケットというスポーツの魅力を発見したテレビ観戦のにわかファンも多かったようだ。

長い歴史と伝統がある高校野球では、夏の甲子園大会で神奈川県代表の古豪・慶応義塾高校が「エンジョイ・ベースボール」を掲げ、107年ぶり2度目の全国優勝を勝ち取った。半世紀以上前の高校時代、同じ県下の公立校で野球部に所属していた元高校球児の筆者にとっては、野球を楽しみながら、強豪校が多い神奈川大会、そして甲子園での全国大会で連戦連勝し、高校球界の頂点に立ったチームの快進撃に驚くことばかりだった。
筆者の高校時代、練習でも試合でもグラウンドで笑顔を見せようものなら、監督やOB、上級生から逆にカミナリを落とされた記憶しかない。気合が入っていない、緊張感が足りないというわけである。近年、全国各地の高校野球チームで定番だった丸刈りが減り、慶応高のような長髪、髪型自由の選手が増えていることと併せ、時代の大きな変化というものを感じざるを得ない。

海外で報道機関の特派員を務めていた時分、東京本社の運動部デスクからの指示で欧州やアジアの各地で多くのスポーツ競技の世界選手権や国際試合の取材をした経験があるが、やはり日本代表チームや選手たちが試合中に笑顔を見せるという光景を目にすることは少なかったように記憶する。そのような国際試合に出場する日本人選手は国内ではトップレベルのアスリートばかりだが、当時はやはり、監督やコーチに指示されて、作戦を練ったり、試合を組み立てたりしていたように思われる。

WBCでの「侍ジャパン」の優勝、男子バスケットW杯での「あかつきジャパン」の快挙、高校野球の甲子園大会での慶応高の全国優勝に共通するものがあるとすれば、一人ひとりの選手が自分の得意な部分や持ち味を練習時に地道に磨き、勝つためにチームの一員として何をなすべきか、そして試合では緊張を和らげるためにもリラックスし、楽しみながら全力でプレーするという姿勢を見て取ることができる。大事な試合に臨むに当たってのこうした姿勢には、監督やコーチの指示もさることながら、プレーをする選手自身の瞬時の判断が場合によっては重要だという含意もある。

さらに一つ付け加えれば、多くのファンやサポーターの声援や応援に対する選手側の強い感謝の気持ちが、快進撃を支える大きな要因となったのも間違いない。余談ながら、コロナ禍期間中の感染対策強化が叫ばれた時期には、このような大きな声を出す応援が自粛あるいは制限されたことが思い出される。

「侍ジャパン」を率いた栗山英樹監督は悲願の世界一を達成した後の記者会見で、選手が楽しそうにプレーすることで、それを見ている次の世代の子供たちが一流のアスリートに尊敬と憧れの感情を抱き、自分も続いていこうという動きが社会に広がることの大切さを強調していた。

本欄ではごく一部しか紹介できなかったが、日本のさまざまなスポーツ競技での一流選手たちの世界的な活躍は、野球少年や中学・高校のバスケ部選手をはじめとして、それぞれの競技のすそ野を広げることに役立ち、未来のトップアスリート育成にとってもかけがえのない刺激剤になるだろう。

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