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「中国帰国者」って知っていますか? 第6回「中国残留日本人」から「中国帰国者」へ 興津正信(日本語教師)

「中国帰国者」って知っていますか? 第6回「中国残留日本人」から「中国帰国者」へ 興津正信(日本語教師)

第6回 「中国残留日本人」から「中国帰国者」へ

終戦直後の混乱によって中国に30年余り取り残された「中国残留日本人」に対しての帰国支援は、1972年9月の日中国交正常化以降であっても、一気呵成とはいかなかった。しかしながら、民間団体や世論が国・政府を突きあげたことによって、遅々として進まなかった帰国支援が、ようやく包括的に行われるようになった。帰国支援の面から言えば、日本政府は一定の責任を果たし、中国残留日本人に関する戦後補償問題は一段落着いたと言えなくもない。とりわけ永住帰国を望む人たちについて、国費での援護対象者は中国残留日本人である本人、その配偶者、未成年の子(障がいのある成年も含む)及び中国での養父母というふうにその対象範囲が順次拡大され、1994年からは、65歳以上の高齢の中国残留日本人を扶養するため同伴帰国する成年の子1世帯も援護対象者となった。その「高齢」という年齢についても、のちに60歳、そして、55歳へと引き下がったのである。また同年に「中国残留邦人等の円滑な帰国の促進及び永住帰国後の自立の支援に関する法律」が公布されたことで、法律面でも大きな進展が見られるようになった。2008年には永住帰国した中国残留日本人の老後の生活の安定を図ることでこの法律の改正が行われ、経済面での支援が充実したことで、さまざまな事情で永住帰国に躊躇していた中国残留日本人が帰国しやすい環境が整うようになったのである。半世紀近く苦難に耐え抜いてきた中国残留日本人にとっては喜ばしい状況にようやくなったという感が出たであろう。

帰国状況の推移をデータで見ても、帰国支援の環境が整うたびに、そのピークが表れていることがわかる(図1)。繰り返しにはなるが、その帰国ピークは帰国支援の関連法律ができたからだけではなく、前回コラムで取り上げた「中国残留婦人12人の強制帰国」などの切羽詰まった行動、支援し続けた民間団体の努力、メディア等による世論形成によって政府が後押しされた表れであるともいえる。

図1

ともあれ、無事祖国・日本にたどり着いた中国残留日本人、そのなかで、永住帰国を希望する彼らについては、厳密にいえば、「中国残留日本人」という呼称ではなく、「中国から帰国した」日本人、つまり「中国帰国者」となる。そして、彼らにとって、次に迫る問題は、果たして半世紀近く見ることもなかった日本でうまく生活ができるのかということである。彼らは終戦後から1972年までの30年余りの日本をまったく知らないのである。家族・友人らも、自分の故郷も、街並みも大きく変わっている。帰国しても、まさに浦島太郎状態な彼らが、帰国した翌日からあとは自分たちで生活してくださいというのは酷な話であろう。つまり、「中国帰国者問題」というのは、帰国してから始まるものなのである。

永住帰国した中国残留日本人(以下、中国帰国者)について、彼らが地域社会に定着し、日本の生活に適応できるよう、国は基礎的な日本語学習や生活習慣などの集中研修を行う施設を設立すると決めた。それが1984年2月、埼玉県所沢市に開設された「中国帰国孤児定着促進センター」である。1994年には残留婦人等も受け入れることで「中国帰国者定着促進センター」に改称された(以下、定着促進センター)。宿泊施設も兼ねた定着促進センターでは、帰国直後、まだ定着先が決まっていない中国帰国者であっても、そこで、生活しながら研修を受けられたのである。研修期間は4か月であったが、2004年からは6か月に拡大した。

こういった定着促進を目的とした施設は、永住帰国の希望の増加に伴い、日本各地で増設された。さらに、定着促進センターでの研修終了後、次のステップとして、中国帰国者及びその家族が、実際に各地で生活が始められるように、1988年から全国各地に順次「中国帰国自立研修センター(以下、自立研修センター)」という二次セクターが開設された。そこで、引き続き日本語研修などを受けられるようになったのである。そこでの研修も終了した中国帰国者らは、順次各地に定着できるようになったのである。

2000年に入って、2008年のピークを除けば、帰国者が減少し、それとともに定着促進センターの入所者も減少してきた。また研修を終了し、施設から退所した中国帰国者たちが、各地に定着できるようになったことで、当初の目的であった定着・自立促進の役割は果たされてきた。そのため、全国各地の自立研修センターは2013年3月までに徐々に閉所され、定着促進センターも2016年3月末日、最初に開設された所沢の定着促進センターが閉所されたことで、これらの施設はすべて閉所したのである。

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