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経済苦境の中でも明るいムード作り出す中国の春節―国民は「光明論」を信じるのか(下) 日暮高則

経済苦境の中でも明るいムード作り出す中国の春節―国民は「光明論」を信じるのか(下) 日暮高則

経済苦境の中でも明るいムード作り出す中国の春節―国民は「光明論」を信じるのか(下)

<経済混乱の意味とその後>
中国では歴史的に経済危機があると政治的な混乱を招き、政変が起こりやすいとされる。過去の例を見ると、1950年代、毛沢東主席が発動した大躍進政策が失敗、国内は飢餓状態に陥った。この結果、劉少奇国家主席、鄧小平総書記らの修正主義派が実権を握ったが、毛主席は不満で、文化大革命を発動して、権力を奪い返す。文革は中国を混乱させただけで国民経済は低迷し、側近だった林彪副主席らに軍事クーデター未遂事件を起こされてしまう。1989年の民主化運動、それに続く6・4天安門事件は、当時ハイパーインフレで老百姓が生活苦にあったことが背景にあったと言われている。1990年代から鄧小平氏らが主導した改革・開放路線で経済成長を果たしたが、習主席はこれで格差拡大が進んだと否定的であり、今、「共同富裕」を唱え、再び公営化の政策を進めている。

社会主義経済は「吃大鍋飯(大きな釜の飯を食べる)」「鉄椀飯(壊れない茶碗の飯)」という言葉で皮肉られたように悪平等の非合理さから経済活動は進展しないとされてきた。だが、習主席は毛主席を尊敬し、再びその時代に戻そうとしているようだ。国営企業、中央企業に資金を重点分配し、相対的に民営企業の活力を削ぐ「国進民退」の政策を進めている。公営企業は高速道路、高速鉄道、地下鉄建設など採算度外視のインフラ事業が多いため、赤字になりやすい。その結果、こうした企業では職員への賃金未払いが起こっている。これまでは土地使用権の売却で財政を潤わせていた地方政府も不動産開発の停止状態で、収入が途絶え、職員に給与払えないところも出ている。

経済の衰退で人心が掌握できなくなるとなれば、中央指導部は強権力、宣伝力を発動するしかない。そこで出てきたのが「経済光明論」の吹聴だ。PKOで株価を維持し、春節の人出を誇張した上で、中国経済は依然衰えていない、今後も発展するというメッセージを老百姓に送り続けている。その一方で、党中央は、習主席の偉大さと権力掌握の正当性を示すためか、個人崇拝キャンペーンにも熱心だ。1月31日に開かれた政治局会議では、これまでの「習近平思想」学習運動を総括し、引き続き蔡奇書記局書記の指導の下学習の徹底を図ることを決めたという。また、米国の華文ニュースによれば、驚くことにこの会議で習主席夫人の彭麗媛女史を党中央政治局委員にするという提案も出されたという。

習主席におもねる誰かが提案したのであろうか。実現すれば、毛沢東主席の妻江青女史以来の幹部夫人の政治局入りとなる。江青女史は女優上がりだし、彭麗媛女史も著名な歌手。いずれも元芸能人で政治好きという点で共通性がある。だが、彭女史の政治局入りは採択されなかったもようだ。習、彭夫妻の一人娘習明沢さんは今、党中央宣伝部にいて、習近平弁公室指示の下でX(旧ツイッター)やフェイスブック上に「Xi’s moments」というアカウントを持ち、父親の対外宣伝に一役買っている。これを見て、チャイナウォッチャーの中には「習近平は娘への権力継承を考えているのではないか。北朝鮮を参考にして、世襲が一番政治体制の安定性に役立つと認識しているのかも知れない」との見方をする人もいる。

ところで、党大会開催の翌年秋に開かれるべき3中全会はいまだに開かれていない。一般に、3中全会というのは、党大会の一年後に開催し、その後の中期的な政治、経済方針を決める極めて重要で、注目される会議なのである。文革の終結を受けて、鄧小平氏が1978年秋に開いた第11期3中全会で、それまでの階級闘争重視から現代化建設重視に方針を転換したことはあまりにも有名で、歴史に刻まれている。2022年秋の第20回党大会を受けた3中全会は本来、昨年秋に開かれるべきものであったが、昨年は外交部長、国防部長、ロケット部隊司令員などの更迭という政治的な混乱や経済的な苦境があったため、開きにくかったと見られる。

今、経済が苦境にあるだけに、第20期3中全会がどうなるのかは、チャイナウォッチャーの間ではとりわけ注目度が高い。今年の全人代は3月5日開催と決まっており、恐らくその前に開かれることが予想される。この会議が無難に開催されれば、習路線の継続、習主席の権力基盤の安定性が確認されるのだが、2月中旬の時点でそのスケジュールは明らかにされていない。あるいは、党内情勢が混沌としているのであろうか。


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