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米側が指摘する中国経済5つの問題点-影の銀行「中植」が破産、庶民はゴールド買いに(上) 日暮高則

米側が指摘する中国経済5つの問題点-影の銀行「中植」が破産、庶民はゴールド買いに(上) 日暮高則

米側が指摘する中国経済5つの問題点-影の銀行「中植」が破産、庶民はゴールド買いに(上)

中国で毎年春に開催される全人代が今年は3月5日-11日の日程で開催された。経済目標は前年と同じ「5%前後」という数字が示されたが、今後5年の経済方針を審議する第20期3中全会が昨年秋に開かれていないため、この目標数字について党内でどこまでコンセンサスを得ているのかは不明だ。不動産バブルの崩壊を受けて製造業は停滞、消費も伸びず、経済はデフレスパイラルに陥っている。経済ファンダメンタルズ(基礎条件)は依然芳しくない。土地使用権の販売収入に主に依存していた地方政府の財政が悪化、インフラ投資はできない状態にある。一般庶民は先行き不安を感じ、金融機関からの預金の引き出しを図るが、それもままならない。高利で民間資金を募っていた「影の銀行」や「融資平台」からの償還は「もう望めないのでは」との見方も出ている。こうした不況ムードの中で、庶民はゴールドの大量買いなど新たな財産防衛策に乗り出した。全人代前後の経済に関する話題をアラカルトで探ってみる。

<経済低迷の5つの原因>
米系華文ニュースは、中国経済が低迷している原因について5点挙げている。これは、米国政府の認識に近いとも言われる。それによれば、低迷の最大原因は「不動産不況」。GDP構成の3割を占めると言われるこの業界は2020年以降危機に陥っている。中央政府が不動産への過剰投資を抑えるために同年、「3つのレッドライン」政策を打ち出し、開発業者への金融機関の貸し出しを厳格化した。これまで富裕層は資産保持の手段として不動産を2軒、3軒と持っていたが、習近平国家主席が「住宅は住むためのもので、投機の対象にするべきでない」と号令をかけたことで、余剰にあった住宅が売れなくなった。こうした動きの中でさらに不動産不況に拍車をかけたのがゼロコロナ政策。老百姓(一般庶民)は日常活動が制限されて所得や消費を減らし、その結果、最大の消費対象である住宅でも、購入マインドが削がれた。

ゼロコロナ政策がなくなった2023年初頭、住宅需要が回復した。だが、これも一時的な現象だった。経済全体が冷え込んだ上、金融機関の貸し出し抑制が続き、住宅購入者も開発業者も資金繰りに難儀しているからだ。中国の住宅購入は建設前に契約し、完成後に受け取るシステムで、購入者には物件入手前からローンの支払いが生じる。だが昨今は、建設が停止されているので、購入者は住むあてのない住宅のローンを支払うはずもない。開発業者はさらに資金繰りに困り、一部は建設途上のまま放置される「爛尾楼」の物件となっている。こうした低迷状態によって西側の評価会社スタンダード・アンド・プアーズは「中国の2023年の不動産売上額11兆6622億元からさらに落ち込んで10兆元程度になるではないか」との悲観的な見通しを示している。

華文ニュースが挙げる2つ目の経済低迷原因は「消費者心理の委縮」であるという。これまでも当サイトで書いてきたように、2023年の消費者物価指数(CPI)はずっと低迷か横ばい。今年2月に前年同期比0・7%増と幾分上昇したが、生産者物価指数(PPI)は下落を続けている。デフレ傾向に陥ったことで、老百姓は将来に不安を感じ、物を買わず、収入の多くを貯蓄に回した。西側メディアによれば、「中国人民は(生活の先行きに)自信をなくしている」状態にあるという。特に、若者世代では就職ができない人が多く、彼らは親のすねかじり族となっている。自動車や住宅は買わない、恋愛をしない、結婚もしない、子供を作らないといういわゆる「寝そべり族」となり、消費に後ろ向きで経済成長には寄与しない“人種”と化している。

3番目の原因は、「政府も企業も債務過剰に陥っている」ことだ。あるメディアによれば、中国全体の債務は今、GDPの300%まで膨れ上がっているという。不動産業者は2010年から20年にかけて、レバレッジを効かせた借入金で過剰な住宅、商業施設などの建設を行い、債務が膨張した。これまで地方政府は土地使用権を開発業者に売却することで財政を潤してきた。一時はこの収入が地方政府収入の3割以上、2019年-21年には4割にも達していたという。加えて、地方政府は「融資平台」という傘下の団体でも民間の資金を集め、インフラ建設にのめり込んだ。地方の幹部は自らの出世のために地域の経済成長率を確保し、業績を誇張したがる傾向にある。採算度外視のインフラ投資が必要だった。ところが、一昨年前くらいから、不動産バブルが弾けて土地使用権販売収入がなくなった上、造り続けたインフラも新たな価値を生まないものが多いことから、地方財政は赤字化した。

不動産開発業者に資金を提供したのは主に銀行、ノンバンクであり、地方政府のインフラ建設をバックアックしたのは融資平台だが、もともとこれらの資金は老百姓の貯蓄だ。2022年夏、バブル崩壊予兆を見て彼らは預金引き出しにかかった。河南省の小規模銀行では取り付け騒ぎが起き、預金引き出しに応じない銀行の前には大勢の預金者が座り込む事態となった。こうした小規模銀行は自ら地道に投資先を見つけるのではなく、預金をそのまま国有の大型銀行や融資平台にスルーして再投資してきた。すなわち、不動産バブル崩壊による危機は銀行も融資平台も一蓮托生なのだ。党と中央政府がこの債務に対し保証措置を取らない限り、最終的な被害者は結局、なけなしの金を金融機関に託してきた老百姓ということになる。中国では、最大50万元のペイオフ保証があるというが、数多くの銀行、融資平台がつぶれた場合、実際に保障してくれるかどうかは分からない。

4つ目の原因は「デフレ傾向」だ。一般に、経済は徐々にインフレ状態にあることが健全なトレンドとされる。失われた20年でデフレ傾向になった日本も「インフレターゲット2%」の目標を掲げて、景気浮揚を図った。それに比べてデフレは底なしの落ち込みを感じさせるため、極めて危険な兆候だ。中国は不動産業の崩壊でバブルが弾けて製造業全体が落ち込み、続いて金融機関、消費関連企業まで波及し、負債ばかりが目立つ不景気状態となった。今はデフレスパイラル(悪循環)の状態にあることは間違いない。これを解消するためには政府が資金を投入し、1930年の米国「ニューディール政策」のような大規模な公共事業を起こすしかないが、中国ではすでに高速鉄道、道路網、空港、港湾整備などを過度に完成させており、社会資本の充実につながる新たな投資先を見つけにくいのが実情だ。

経済低迷5つ目の原因は「外資の撤退」だという。中国には1998年から相当量の外資が流入し始めた。1990年代初め、当時の最高指導者、鄧小平氏が経済発展のベースとして「改革開放路線」を掲げ、海外からの資金、人材、技術導入の必要性を訴えたことが発端。2000年代に入り、毎年の経済成長率が10%前後となると、外国企業の期待感はますます強まり、資金を大量に投入した。だが、この右肩上がりの外資流入も2023年第3四半期までに終わった。この期の国際収支を見ると、中国の対外直接投資額(FDI)が流入より118億ドル多いという初めての”赤字”となった。さらに、同年通年で見ると、前年比82%減の330億ドルの赤字だった。1993年以来の低水準だという。海外企業は、デフレから抜けきれない中国経済の先行きに見切りをつけたようだ。さらに、反スパイ法の施行などで従業員が逮捕されるという恐怖心が増したことも中国投資の勢いを抑えている。

華文ニュースはこの5点にとどまらず、背景に「人口の減少、老齢化」の問題があることも指摘している。公式統計によれば、2022年に14億2589万人だった中国人口は、この年を境に対前年比で減少に転じた。今の若者には「寝そべり族」もいるように子作りは期待できない。1979年から2014年まで実施した一人っ子政策によって人口ピラミッドは真ん中がくびれたいびつな状態になっている。つまり一人っ子世代は今10-40歳に当たり、働き盛りか、これから働き世代の中心になる人たちだが、彼らの人数が極端に少ない。それに対し、退職年齢に達した60歳以上は異常に多い。日本も同様のことが言えるが、今後少ない労働者世代がいかに老齢退職世代を養っていくのが課題になっている。同年齢人数が少ない一人っ子世代や年金暮らしの老齢者が多くなれば、消費が伸びないのは目に見えていよう。

<中植集団の破産>
中国のバブル経済崩壊の中で特に注目しておくべきはノンバンク「影の銀行(シャドーバンキング)」の動向であろう。地方政府の傘下にあり、債務保証もにおわす融資平台と違って、影の銀行は高利回りの「理財商品」を販売して広く資金を調達する民間の団体だ。とはいえ、中国で純粋の“民間”はあり得ない。裏では特定の党中央幹部がしっかり政治面でバックアップしていると言われる。このため一定の保証はあるだろうと見て、富裕層らがまとまった資金を拠出した。西側のカテゴリーで言えば、株式、為替、ディリバティブ取引などのポートフォリオを作って儲かりそうなさまざまなところに資金を出す投資顧問会社の類いであろうか。影の銀行資金の多くは右肩上がりだった国内のIT企業や不動産投資に回されたもようで、まさにバブル経済の申し子とも言えそうだ。

中国最大級の影の銀行である「中植企業集団」は今年1月5日、「満期が来た債務を返済できない。すべての債務を返済するには自己資産では不十分である」として北京第一中級法院(裁判所)に破産清算を申請し、受理された。2023年時点で同集団の資産総額は2000億元だが、それ以前に運用していたのはレバレッジを効かせて1兆元を超えていたと言われる。不動産バブルの崩壊などで負債総額は23年段階で所有資産の2倍以上の4200億-4600億元に達していたもよう。法院公告によれば、債権者は今年4月5日までに債権規模を資産管理人に提出することが義務付けられた。だが、生産手段を持たない“投資顧問会社”に負債償還に応じられる資産があるのか、償還の手立てはあるのか、はなはだ疑問だ。

中植企業集団はもともと黒竜江省で、ある市井の印刷工兄弟が木材を闇で伐採し、財を成し、それを元手に始めた企業。兄弟は中央に進出したあと、信託、保険、ディリバティブなどさまざまな分野の専門子会社を作り、一大企業集団を作り上げた。それぞれの企業がまたレバレッジを効かせて運用に励んだため、民間企業としては想像を絶する巨額な資金を取り扱い、それでまた巨額の負債を生んだ。中植集団経営の中心にいた兄弟のうちの一人解直錕氏は2021年12月、心臓発作により61歳の若さで急死し、企業は甥子が引き継いだ。だがそのころすでに、当局によるIT産業への圧力、不動産業でも締め付けがあり、投資利益が出ない中植の経営も行き詰っていったようだ。中植の負債償還不能を受けて北京市当局は2023年夏ごろから責任追及に乗り出し、年末までに同社幹部を逮捕した。そのため、年明けの破産申請は必然の流れだった。

民間企業が全国的に事業展開し、多くの子会社を持つほどの大規模企業集団にまで膨れ上がるには党幹部の後ろ盾が必要だ。黒竜江省で国有森林を伐採し、それを闇で流すのは市井の労働者だけではできない。当時は地方党幹部がバックに付いていたのであろう。解直錕兄弟が北京に来たあとは、今度は党中央の有力幹部の手助けが要る。それはだれか、気になるところが、明らかになっていない。ただ、一つ言えることは党中央で一強支配を続ける習近平主席系の幹部ではないことは確かだ。江沢民元国家主席系の幹部と連携した不動産大手の「恒大集団」が現在、オーナーの許家印氏が逮捕され、企業清算の危機に直面していることを見れば、同じ目に遭っている中植集団の後ろ盾もおぼろげに見えてくる。


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