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米側が指摘する中国経済5つの問題点-影の銀行「中植」が破産、庶民はゴールド買いに(下) 日暮高則

米側が指摘する中国経済5つの問題点-影の銀行「中植」が破産、庶民はゴールド買いに(下) 日暮高則

米側が指摘する中国経済5つの問題点-影の銀行「中植」が破産、庶民はゴールド買いに(下)

<投資環境の変化>
習近平主席は今、人民元の国際化、つまり国際決済通貨として人民元使用の拡大を目指している。もともと東南アジアやアフリカ諸国との取引は人民元を使っていたほか、ブラジルや中東諸国ともドルの利用を止め、人民元化を進めている。加えて、ウクライナ戦争が勃発したあと、ロシアは西側との取引を停止したためドル、ユーロ決済が少なくなり、代わりに原油など中国との貿易量を増やした。それは人民元で取引され、グローバル規模で同通貨の決済が多くなった。2023年の外貨取引で人民元の利用総額は前年比で3倍以上になったという。決済通貨として利用される人民元の額は日本円を抜いてドル、ユーロ、ポンドに次いで4位になっている。

ただ、ロシアとの貿易で利用が増えたからといって、人民元決済の比率が激増したわけではない。2024年1月時点でまだ4・51%。ドルの46・64%、ユーロの23・02%と比べてもかなり低い。人民元は、管理変動相場制(管理フロート制)に基づく通貨バスケット方式が採用され、ドル、ユーロなど他の複数の国際カレンシーに連動した固定レートが設定されている。つまり、為替が金融当局に管理されており、資本取引が完全に自由でない。比較的管理が緩やかなオフショアの取引量は少ないし、中国当局の政策転換次第で他外貨との交換停止に追い込まれる危険性もある。そうした点が人民元の国際カレンシー化への障害になっている。

そして昨今は中国経済の悪化から、人民元の“人気”が落ちている。一般に国内の投資家が海外に人民元を持ち出すことには制限があるが、2006年4月から「QDII(適格国内機関投資家)」と認定された基金を通じてオフショア証券への投資ができる制度がスタートした。これを受けて最近、富裕層が大量の資金をこの基金に流し込んでいる。中国基金業協会(AMAC)のデータによると、今年1月、QDII基金に流れ込んだ資金は前年同期比で50%増となった。この増加率は史上最高という。オフショア証券への投資が増えていることに反比例して、国内株式市場への資金流入は減っており、ここ5年のうちで最低の株式指数を示すなど低迷状態が続いている。

昨今のデフレ不況で海外に脱出する国内の富裕層が増え、彼らは人民元をさまざまな形で海外に持ち出し、海外の証券市場に投資したり、土地、建物の不動産を購入したりしている人も少なくない。中国国内では土地の使用権しか買えないが、海外では所有権入手も可能なので、自らの資産確保のために勢い目は海外に向いている。日本などは恰好の投資先であり、北海道や富士山周辺の水源地の土地や、京都、箱根、白馬などの観光地の宿泊施設が狙われている。特に今は、人民元は米中の金利差から対ドルで安値になっている一方で、対日本円では高値を維持しているため、中国人が投資しやすい環境にある。ただ、日本側も森林、水源保護、経済安全保障上の観点から自治体が条例で規制するなどの動きも見られる。

前述するように、投資環境の悪さから海外企業の対中進出が減っており、人民元を求める動きが減っている。2023年、日本企業の対中投資は過去10年間で最も少なく、新規海外投資のうち中国向けはわずかに2・2%のみ。ベトナム、インドへの投資額も下回った。台湾企業は2010年をピークに対中国の新規投資は減少し続けている。2010年には台湾企業の対外投資全体に占める対中投資の割合は83・8%だったが、23年は11・4%と激減した。韓国企業も、2023年第1-第3四半期の対中新規投資額は前年同期比で91%減となった。外資企業は在中国のブランチ、工場をたたむだけでなく、上海や深圳の株式市場からも資金を引き揚げており、この面でも人民元人気は下落している。

呉江浩駐日中国大使は、日本の雑誌からインタビューを受けた際、「一部の外資企業は中国を去っているが、“脱出潮”が出現したわけではない。2023年に中国で新設された外資企業は5万3766件で、前年比39・7%増、使われた外資は1兆1000億元以上。この額は2021年、22年に次いで史上3番目の多さだ」と外資撤退説に反駁した。それでも外資撤退があると言われたことに対し、同大使は「中国では今、経済システムの転換が図られ、すさまじい勢いで地元企業がのし上がっている。市場競争の中で外資企業は競争力不足を感じ、自ら撤退を決めたのだ」と述べ、中国市場における中外企業の競争の結果だと強調した。大使がどう抗弁しようと、外資の流入減は国際収支のマイナスで明らかになっている。

<ゴールド買いへの奔走>
「戦争時のドル買い、ゴールド(黄金)買い」とは古くから言われている言葉だ。特に普遍的な価値を持つゴールドはウクライナ戦争、中東のイスラエルによるガザ侵攻を受けて昨今需要が高まっている。これは世界的な現象だが、日経新聞によれば、とりわけ中国が2023年、新規に225トンを購入して保有量を増やし、異常なゴールド需要を起こしているという。反面、中国はドル債券の保有に見切りをつけ、23年11月時点で約7820億ドルと前年比で1割減とした。つまり、ドル売りの代わりにゴールドを購入している勘定だ。狙いは、もちろんドルによる世界経済支配を弱め、相対的に人民元の利用を広げるという経済戦略的な意味があることは間違いない。また、米国の半導体輸出規制など現在の米中貿易摩擦や、「当選後、中国からの輸入品に100%関税をかける」などとトランプ米大統領候補が脅しをかけていることへの反発もあるだろう。

中国の老百姓はデフレ不況により、国内経済がシュリンクし、人民元の価値が下落するのを恐れている。このため、絶対的な価値を持つゴールド保有への意欲を強めている。中国黄金協会の統計では、2023年、国内のゴールド消費量は1089・69トンで、前年より8・78%の伸び。ゴールド買いのブームはここ数年の現象のようである。中国人にとってこれまで不動産が最大の個人財産であり、一般家庭財産の6-7割占めている。だが、不動産バブルが崩壊し、その資産価値を落としていることから、老百姓の関心はゴールドに向いた。王朝が往々に変わることがあった中国では伝統的に権力者が発行する貨幣を信用せず、ゴールド依存が強かった。今、再びその現象が起きているもようだ。

中国人がゴールド買いに行くために出掛けるところは、主に香港だ。なぜなら香港で売られるゴールドは安いからだ。華文ニュースによると、2月中旬、香港に行った女性が宝飾店のゴールド価格を見ると、1グラム当たり592香港ドル(人民元540元相当)だったという。当日、中国の広州で見たゴールドの値段は610人民元(香港ドル669ドル相当)だったので、1グラム当たり70元安い。香港への交通コストを考慮しても大きな得となるので、その女性は有り金をはたいて大量に購入した。ゴールド売りの方も、ある深圳市民が3月初め、ゴールド売買の専門店に持って行ったら、1グラム当たり496元の買い取ってくれたという。「2年前の買い入れ価格は380元だったので、この高騰ぶりに驚いた」と当人は話している。

若者世代では現在、豆粒大の小さな金製品「金豆」を求めるブームが起きている。1グラム程度の「金豆」にはハート型や小さな玉、豆などさまざまなデザインが施してあり、装飾品として利用できるが、主に利殖の意味がある。米ブルムバーグ通信社によれば、福建省でコンピューター学を専攻する女子大学生(18)は今年1月から定期的に600元の金豆の購入を開始したという。彼女は「金豆を買って決して損にはならない」と力説する。中国のZ世代は今、就職難、失業への懸念、加えてデフレ不安を抱えており、これらの不安を癒すためにもゴールド頼りになっている。「寝そべり族」も有り金をはたいてゴールド買いに走っているようだ。人民元を信用せず、ゴールドに依存するのは政治体制への不信感を表すことに他ならない。

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