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第387回 犯罪被害者を初めて経験しての実感 伊藤努

第387回 犯罪被害者を初めて経験しての実感 伊藤努

第387回 犯罪被害者を初めて経験しての実感

これまでの長い人生で初めて犯罪の被害者となった。居住する東京近郊のマンションの駐車場から2台あるうちのマイカー1台が盗難に遭ったのである。マンション駐車場に設置された監視カメラの映像から、大雨が降っていた未明の午前1時すぎに、オートバイで現場に乗り着けた二人組に盗まれたことが分かったが、盗難車の手掛かりはまだつかめていない。盗難された車のトランクに積んであった荷物が自宅からほど近い、隣接する市の路地に不法投棄されていたため、車の盗難と、その事件に関連した不法投棄の2件で居住先近辺の二つの警察署に相次いで、調書作成のための事情聴取を受ける羽目となった。犯罪被害者として刑事さんの世話になるのも初めての経験である。

マイカーの盗難に気づいたのは、早朝の出勤時に車の中に置いた雨傘を取り出そうと、駐車場に向かったが、あるはずの車がなかったからだ。車のキーは、そのときに筆者が手にしていた一つしかないのに、自分の車がないということは「盗難に遭ったのだ」とピンときた。マンション駐車場は50台以上収容できる広いスペースがあり、外車など高級乗用車も多い中で、筆者の中古車が盗まれたのが初めは不思議でならなかった。運が悪かったのかもしれない。

早速、その日は急きょ有給休暇を取ることとし、職場に連絡する一方、居住地のM警察署にも通報し、駆けつけた近所の派出所勤務の巡査、警察署の刑事、鑑識担当者の事情聴取、実況見分に立ち会った。盗まれた車がたまたま1年ほど前に、社会人の長女から譲渡され、名義変更した車だったため、刑事からはこの長女と外出中の妻にも連絡を取り、車を運転していないか確認を求められたが、二人がそのときに車を持ち出していることはあり得ない。車のカギは一つしかないからである。それでも、刑事は二人に確認するよう求めたが、携帯電話で連絡が取れる妻はともかく、長女はそのとき、海外出張中で簡単に連絡はつかない。刑事には何とか納得してもらったものの、捜査担当者の心得として、事件が起きると、身近な近親者の周辺を探ることがまず重要であるようだった。それが捜査のイロハではあるのだろう。

被害届を兼ねた調書作成と、マンション管理組合が設置した駐車場の監視カメラの映像の確認作業で二人組の犯人が盗んだ車を持ち去った事実が分かり、刑事さんらM警察署の取り調べ班は引き揚げて行った。それからしばらくして、今度は隣接するC警察署の警察官から自宅に電話があり、長女の方と連絡が取れるかどうかと問い合わせてきた。事情を聞くと、長女の私物と思われる資料類などの持ち物がC市の市道脇にまとめて捨てられており、事情を確認したいとのことだった。

電話のやりとりで、盗まれた車のトランクにあった長女の荷物を犯人が処分に困り、不法投棄したのだろうとのみ込めたので、その旨を電話で説明し、すぐに現場に向かうと伝え、自宅からもう1台の車で10分ほどの指定場所に急行した。恐らく、盗難の犯行直後に投げ捨てられた長女の持ち物類は夜間降り続いた雨でずぶ濡れ状態となっていた。

一応、車盗難事件の証拠品ということで、現場で回収された持ち物類はC警察署に運ばれ、不要とみられる品々は父親である筆者の立ち会いの下、廃棄処分となった。C警察署でも、調書が作成され、盗難車の所有者である筆者が署名した。

犯罪被害者としての初体験の概要は上記の通りだが、なぜ自分の車が盗まれたのかはいまだによく分からない。インターネットで「車の盗難」と検索すると、さまざまなケースが紹介されており、筆者の場合は、盗んだ車を分解して部品を売り払う算段ではないかと推測した。
盗難車の元所有者である長女は出張先の海外で、1年ほど前までの地方勤務時に「仕事の良き相棒」だった愛車の予期せぬ運命の展開に、「残念!」の思いを繰り返していた。二人組の犯人にとっては単なるカネ稼ぎの手段なのだろうが、車の盗難はれっきとした刑事事件であり、警察関係者にはぜひとも犯人を検挙していただきたい。

 

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