第386回 水泳が苦手な東南アジア 直井謙二

第386回 水泳が苦手な東南アジア
リオ・オリンピックは水泳選手の活躍などで日本は目覚ましい成績を上げ終了した。一方、東南アジア諸国の成績を振り返ると意外にもウェイトリフティングでメダルを取る選手が多かったが、競泳は振るわない。東南アジア諸国は水泳に適した環境に恵まれた国が多い。熱帯や亜熱帯に属する東南アジアは1年中水泳に適している。
東洋のベニスと言われるタイにはメナム川が流れているし、カンボジアには大河メコンが国土を貫いて生活のすぐそばに水がある。(写真)タイのプーケットやインドネシアのバリ島など美しい砂浜と澄んだ水を売り物にするビーチも多い。特に冬季は遠く欧米や日本から大勢の観光客が押し寄せる観光スポットも少なくない。

海辺を訪ねると東南アジア諸国の国民は水泳が苦手な理由が分かる。欧米人や日本人、それに地元の観光客が入り混じってリゾート気分を満喫しているが、スタイルははっきり分かれる。男性とともに一部の女性まで上半身裸の欧米人、水着を付けた日本人、普段の服装のままで海に入る現地の観光客。リゾート地でも宗教や生活習慣が抜けない現地の観光客は肌を露出することを嫌がる。
学校教育にもその差が現れていて、東南アジアのほとんどの日本人学校にはプールがあり、ほぼ1年中水泳教室が開かれる。小学校卒業時には1キロの遠泳をこなす生徒も少なくない。一方、経済力の差もあるがほとんどの東南アジアの小学校にはプールがない。また身近にある川で体や顔を洗う姿は見かけるが、水泳を楽しむことは少ない。
東南アジア諸国がオリンピックの水泳で振るわないのは成長期に水泳に接する機会が恵まれないことが影響しているようだ。国の宗教や生活習慣によって得意不得意なスポーツがあっても構わないが、水泳が苦手なことが原因で子供の水の事故は多いのは問題だ。例えばタイの保健省は2006年から2015年までの15歳未満の死因がデング熱や交通事故を抜いて水死がトップとなったと発表した。この間に1万人以上の子供が水死したという。水に恵まれた環境にいながら水泳ができないことが事故につながっている。
地方では水道設備の未発達から雨水をためて生活用水に使う家庭も多く、泳げない子供がためた雨水で溺死するケースも多い。例えばタイでは5歳から14歳の子供830万人のうち水泳ができるのはわずか200万人しかいないという。オリンピックの成績以前に4人に1人しか泳げない子供の現状を改善する必要がありそうだ。
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