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第349回 ベトナムのマスク・ファッション 伊藤努

第349回 ベトナムのマスク・ファッション 伊藤努

第349回 ベトナムのマスク・ファッション

冬のインフルエンザ流行シーズンでわが国でもマスク着用の人が増えているが、日本ではマスクの形こそ一般用、医療従事者用などと何種類かあるとはいえ、色は白というのが常識となっている。しかし、世界はさまざまで、昨年秋に訪れたベトナムでは、特にオートバイを運転する若い女性たちの間で色とりどりで、加えて模様をこらしたファッション風マスクが流行していたので驚いた。日本とは違って、ベトナムではどこの都会でも女性のオートバイ利用者が多かったが、排気ガス対策として着用するマスクをお気に入りのものにするというのが「乙女心」というか、人気の秘密なのだろう。

日本では、「マスク美人」という言葉もあって、マスクで顔の下半分を隠すと、目とその上の額、頭部しか露出しないため、「美人のように見える」ことがままある。マスクを着用する女性がすべて「マスク美人」に見られることを狙ってマスクをするわけではないだろうが、ベトナム人女性のマスク・ファッションはやはり、周りへの「アピール効果」という気持ちが強いのではないかと推察する。

ベトナム女性民族衣装「アオザイ」

というのも、オートバイ運転時の女性の着用マスクがセンスのいい服装との取り合わせになるようにアレンジされているケースを散見したからである。暑い南国のベトナムではあるが、オートバイ利用者の多くは男女とも、厚手の長そでの服を着ており、半そでで肌を露出した運転者は意外と少ない。事故が起きた転倒時のケガや日焼けを恐れて、防護対策をしっかりしておくという狙いもあるのだろう。

ファッション・マスクとも呼ぶべきマスクは、ピンクやブルー、黄色、カラーを取り合わせたものなど色合いはさまざまで、デザイン・模様は欧州のブランド物のコピーも多く、ベトナム人女性のファッションの好みの一端が垣間見えて興味をそそらえる。この国では、オートバイの二人乗り、三人乗りが普通で、カップルらしき若い男女がおそろいのカラーマスクを着用しているのもほほえましい。

ベトナムではオートバイ事故による死傷者の増大という事態を受けて、数年前にヘルメット着用が義務付けられたが、ヘルメットに加えてマスクを着用すると、周りの人間が目にできるのは顔では目の付近のごく一部ということになる。顔の全体が見えないため、「目によるアピール」とファッション・マスクを含めたオートバイ運転時の着こなしがますます重要となるのかもしれない。

ベトナム人女性と言えば、民族衣装の「アオザイ」が有名だが、オートバイ利用者の女性のマスク・ファッションも色や柄がとりどりのあでやかなアオザイの伝統を引き継いでいるのかもしれない。南部の大都市ホーチミン市(旧サイゴン)では、アオザイを着た女性のオートバイ利用者の姿を見掛けたが、両側の裾の長い部分は前のハンドル部分にくくりつけていた。アオザイの着用時はオートバイの運転は避けた方がいいのではと余計な心配をしてしまった。日本では、着物姿のオートバイ運転者を見たことはない。

 

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