第239回 東京勤務のラオス外交官の夢 伊藤努

第239回 東京勤務のラオス外交官の夢
最近、タイ投資事情視察のミッションに参加した折にラオス外交官のソンカーン・ルアンモーニントン氏と1週間にわたって旅を共にし、ラオス人の目から見た東南アジア諸国や日本の印象を聞くことができた。40代後半の同氏は社会主義国ラオスの外交官として、モスクワに留学したほか、タイのバンコク、米ニューヨークの駐在経験があり、日本もラオスにとってすこぶる重要な任地国だ。
先のタイ投資事情視察では、進出日系企業の工場見学や企業幹部の経営・管理手法などを聞く機会があったが、ソンカーン氏もこれらの工場見学を通じて、タイに比べるとやはり遅れが目立つ本国政府の外資誘致戦略などについて大いに参考にしたはずだ。
人口7000万のタイとは陸続きのラオスは人口が650万人と、国の規模は格段に小さく、1975年まで続いた内戦と社会主義革命後の混乱のあおりで、経済成長に欠かせない工業分野の発展には程遠い。しかし、同じ社会主義の隣国ベトナムがドイモイ(刷新)と呼ばれる改革・開放路線に舵を切って以降は目覚しい経済発展を続けていることをみれば、政策次第ではラオスも同じ道を歩むことができるに違いない。
ソンカーン氏が日本勤務となり、東京からわが国だけでなく、同じ東南アジア諸国連合(ASEAN)の国々の通商政策や外資誘致戦略を間近にみることができる現ポストは、本国政府が国づくりの基本をエリート外交官に実地研修させているように思われた。
ご存知の読者も多いだろうが、タイ語とラオ語は、後者がタイの方言ともいわれるほどに言語学的に近い関係にある。このため、1週間の投資視察の間もタイの政府や経済団体要人によるタイ語の説明はほぼ100%理解できたはずだ。筆者も、タイ語から日本語への通訳の意味がよく取れなかった部分は、その後にソンカーン氏に英語で再確認をしばしば求めたほどだ。
投資視察の日程が終わりに近づいたころ、同氏から日本の政治情勢や政治的問題の背景説明を求められた。記者の仕事を長く続けてきた筆者は日ごろから、外国人と接する場合には互いに情報の「ギブ・アンド・テーク」を心掛けており、知っている限りの情報を基に説明して感謝された。質問は、小泉純一郎元首相の郵政民営化政策の背景と元首相による最近の原発ゼロの訴えに対する政府や国民の受け止め方に関するものだったが、個人的見解と断って、持論を詳しく説明した。
投資視察団一行との食事会の席でアルコールが回っていたこともあり、ソンカーン氏に将来の抱負を尋ねてみた。返ってきた答えは、どこかの国で大使を一度やってみたいというものだった。ラオスにとって大事な周辺国が希望のようだったが、居合わせた日本人記者は一同、ソンカーン「大使」の任地国を訪ねてみたいとの点で一致した。控えめな印象の強いインドシナ半島の内陸国ラオスの距離が一挙に狭まった。