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第240回 フィリピン経済と出稼ぎ 直井謙二

第240回 フィリピン経済と出稼ぎ 直井謙二

第240回 フィリピン経済と出稼ぎ

アメリカの金融緩和策の出口戦略が取りざたされマネーがアジアから流出し高い経済成長に歯止めがかかってきたが、フィリピンだけは例外的に好況が続いている。去年のGDP成長率は6.8%、今年に入っても1―3月のGDP7.8%と中国を抜いてアジア主要国の中でトップに躍り出た。

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年代半ばから90年代末にかけて数10回に渡って取材に訪れ、2年ほど駐在した筆者にはにわかに信じがたいデーターである。フィリピン人の友人もアジアの病人と揶揄される経済の低迷を認めていて、フィリピンが成長できないのは宗主国だったスペインがフィエスタなど働かない習慣を残し、次のアメリカが権利を主張することばかりを教え、太平洋戦争中は占領した日本が暴力を教えた。だからフィリピンは経済が成長しないと語った。筆者はうまくいかないことをすべて外国のせいにすることが成長できない理由ではないかと切り替えしたものだ。

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経済が好調なのに海外労働は減っていないのはフィリピンに産業が根付かないことが上げられるが、他にも理由がありそうだ。マニラ駐在していた90年代中ごろ、ラモス元大統領は海外労働者をフィリピンの英雄と持ち上げ、外貨獲得に向けて積極的に海外労働政策を進めたため、大勢のフィリピン人が中東やアジアに向かった。海外労働は経済的にはメリットがあっても家族と離れ離れになることや有能な頭脳が流出するなどのデメリットもある。最近では台風で5,000人を超す死者が出る惨事があったが、恵まれた職業のはずの気象庁長官まで海外労働に出たことも原因のひとつと指摘する声もある。

ほとんどの市民がカトリック信者のフィリピンではクリスマスシーズンになると海外からの帰国ラッシュでニノイ・アキノ国際空港は帰国する人と迎える家族でごった返す。外貨とお土産を抱えた労働者と迎えた家族は何か月ぶり、何年ぶりの再会に沸き立つ。労働者の持ち込む外貨を当て込んでデパートはセール商戦を展開し、広場に仮説の遊園地が立ち、つかの間のクリスマス特需となる。しかし、ひと月もたち懐がさびしくなった労働者は再び家族と別れそれぞれの職場がある外国に向かわなくてはならない。またいつ家族に会えるか分からないという思いと楽天的な国民性が財布の紐を緩め、海外で稼いだ金を貯金や投資に回す人は極わずかだ。金がなくなったらまた海外で働けばいいという思いも海外労働が減らない理由のひとつだといえるだろう。


写真1:マニラのビジネス街

《アジアの今昔・未来 直井謙二》前回
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