第238回 北京で実感したPM2.5汚染 直井謙二

第238回 北京で実感したPM2.5汚染
0月中旬WHO世界保健機関は、中国で問題になっているPM2.5などによる大気汚染について発がん性があると指摘し、早急に対策をとるよう求めた。
最初に訪中したのは1989年11月だった。日本画家の故平山郁夫画伯が楼蘭を訪ね、仏塔や住居などの遺跡を旅しながら描くドキュメンタリー番組を作るための取材だった。4半世紀前の記憶はおぼろだが、市民の暮らしぶりは貧しく、高層ビルもあまりない北京市内に庶民のおやつチェンピン売りの屋台があったことが奇妙に記憶に残っている。ただはっきり憶えているのは底が抜けるような真っ青な空、まさに北京秋天だった。その後あまり訪中する機会がなかったが、2008年から中日友好協会のはからいで毎年中国を訪れている。毎年の訪中のなかで当然のことながら経済発展や開発に目を見張った。それと同時に徐々に大気汚染が進んでいることも実感した。2008年は北京オリンピックの開催年で中国も国際世論の懸念を払拭しようと国の威信をかけて大気汚染対策を必死になって実施していた年だ。実際、北京や天津などでは大気汚染はさほど気にならなかった。しかし、去年あたりから明らかに北京の視界が悪くなり高層ビルがかすんで見えるようになった。今年は8月にもかかわらず北京の空は霞み、咳が出始めた。(写真)
持参したのど飴や薬を服用しても症状は悪化するばかりだ。北京の高級ホテルのラウンジで後輩と中国情勢について意見交換したが、咳が出てうまくしゃべることができない。早めに部屋に戻り横になったが、一晩中咳が出て一睡もできなかった。帰国してからもしばらく症状は改善せず、医者の診察を受け9月中旬ようやく完治した。

ちょうどその頃、民間シンクタンク東京財団の染野氏は霞山会主催の講演で「北京の汚染PM2.5は粒子が小さく直接肺や心臓に悪影響を与える」と。また「日本のマスコミは冬の季節の汚染だけを伝えるが、汚染は夏も改善されているわけでない」、「中国の環境対策は日本と比べても費用、人員ともに十分ではない」、「中国には地方自治体の選挙も報道の自由も司法の独立もないので環境問題改善の壁は厚い」などを指摘した。そのときは講演を単なる情報として拝聴したが、まもなく事態を的確に捉えた講演であったと身をもって体験した。
訪中のたびに経済発展や開発に目を奪われていたが、環境の悪化にも注目すべきだと反省した。
今回のWHOによる発がん性の指摘は中国の大気汚染が重大なカントリーリスクになることを示唆している。
写真1:大気汚染が続く北京
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