第223回 フリー編集者となってPCに感謝 伊藤努

第223回 フリー編集者となってPCに感謝
パソコンは今や、社会人や学生にとっての必須ツールになっている。1970年代後半から80年代初めの筆者の記者駆け出し時代には想像すらできなかったその後のIT(情報通信技術)の発展、興隆ぶりにはただ驚くばかりである。近年は、デスクトップ型やノート型パソコンも時代遅れの機器と思われるほど、パソコン機能を取り入れたスマートフォン(賢い電話=多機能携帯電話)が全盛で、満員の通勤電車の中などでスマホを操作している人の多さも日常風景になってしまった。
さて、筆者も長年、パソコンで記者兼編集者の仕事をしているが、恥ずかしいことに普段使っている機能は「文章作成」、「メールでの送受信」、「情報検索」のたった3つにすぎない。仕事で必要なためで、それ以外にさまざまにある機能にはほとんど個人的関心はなく、現在に至っている。機能を十分活用していないことを「もったいないこと」とは全然思わないことが、パソコン操作スキルの進歩が十年一日であることの理由だろう。
しかし、パソコンの3つの機能は最大限に活用し、大きな恩恵を受けている。あまり故障もなく、働き者の会社と自宅のマイ・パソコンにはただただ感謝するだけである。大きな恩恵と感じたことの一つは、ここ数年のうちに大学時代の本格的なゼミ会誌の編集を2回続けて頼まれ、任務を難なくこなすことができた経験である。
ゼミ会誌編集長の仕事は、テーマの原稿の執筆をゼミ同窓の人たちに頼み、内容についての相談に乗ったり、送られてきた原稿をチェックして校正した上で、筆者に確認のためのゲラ送りをしたりすることだが、これらの作業が国内外のどこに筆者がいても、すべて一台のパソコン上でできたことだ。編集を終えたすべての原稿を印刷所に送るのもパソコンでクリックを2、3回すれば、完了である。
プロの出版編集者ではないので、本職の方々の仕事場の実態は正確には知らないが、少なくともパソコンが一台あれば、フリーの編集者の仕事のかなりの部分はこなすことができると経験してみて分かったわけである。
ただ、これも、すべての書き手、つまり筆者たちが同じスキルを持っていて、原稿をパソコンを使ってメール送りするという条件が整って初めて可能となる。
仄聞するところによると、筆者の記者時代の大先輩で、その後に学者、評論家となった著名なお二人はいまだに原稿は手書きのものを編集者に送っている。お二人ともすでに高齢で、書かれているものも非常にレベルが高いために許されている仕事の作法とのことだ。筆者の原稿であれば、昔はそれが普通だった手書きでは到底受け付けてもらえないだろうと思い、時代の大きな変化を改めて実感した。