第214回 中国マネーが招く絶滅危惧種の危機 直井謙二

第214回 中国マネーが招く絶滅危惧種の危機
2013年4月15日、フィリピン南西部のスルー海で座礁した中国の漁船から10トンものセンザンコウの冷凍肉が見つかり、フィリピン当局は中国人船員を逮捕した。センザンコウは絶滅が懸念され、ワシントン条約で国際取引が規制されている。アルマジロに似たセンザンコウは甲羅が漢方薬として、肉は珍味として中国では人気が高い。地元メディアによればフィリピンのパラワン諸島などに生息しているという。パラワン諸島にはダイバーで賑わう島もあるが、無人島も多く、フィリピンの治安が及びにくい地域になっている。
10トンもの肉が冷凍されていることから組織的な密輸団の犯行であることが懸念される。
中国漁船が座礁したスルー諸島を巡ってはフィリピン国軍とスルー王国の独立を目指すイスラム・ゲリラが長い間戦闘を続けてきたこともあって国軍すら近づけない地域もある。
中国マフィアがイスラム・ゲリラに金を払って大量のセンザンコウの冷凍肉を生産している可能性もある。
スルー諸島のシムヌール島で中国料理に欠かせないナマコの漁獲を取材した事があるが、中国の漁民にとってはこの地域は勝手知る場所のようだ。

センザンコウの密輸を初めて目撃したのは20年ほど前の中越国境だ。カンボジア紛争や中越戦争も終わりに近づき、中越関係が改善され、ベトナム北部の街ドンダンは中越戦争で破壊された街の復興と中越貿易で沸いていた。大きな荷物を天秤棒で担ぐ大勢のベトナム人や中国人が国境を越えて盛んに行き交っていた。担ぎ手の一部は平和になって職を失ったベトナム兵だ。ベトナム側からは農産物や家畜が中国側に、中国側からは農機具や日用品がベトナムに運ばれていた。猫や犬など愛玩動物まで食糧として中国側に運ばれていた。
センザンコウが運ばれていたのでカメラを向けると、中国人の運搬人は後ろめたいのか猛スピードで走り去った。
急いでカメラを向けシャッターを切ったが、画像はぶれてしまっていた。(写真)霞山会のこのコーナー「アジアの今昔・未来」第58回で「トラを飼うタイの寺」でも触れたが、インドシナのトラも生息数が激減している。中国が漢方薬の材料として高値で買い取るため密猟が絶えない。しかも材料になる成長したトラを捕獲するため、生まれたばかりのトラが残される。
タイ人の住民が子供のトラを見つけると飼う事が出来ないので寺に預けることになる。
中国からのマネーは保護の対象になっている絶滅危惧種にも及んでいる。
写真1:ベトナムから中国に運ばれるセンザンコウ
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