第197回 羨ましい二足のわらじ 伊藤努

第197回 羨ましい二足のわらじ
勤務先で編集者として仕事をしていたときに親交を得た人生の大先輩で、経営コンサルタント事務所の社長がかねて念願の「物書き」となり、第二の母国ともいえるベトナム事情紹介のコラム執筆に熱心に取り組んでいる。以前、このコラムで「羨ましい仲良し3人組」のタイトルでご紹介した3人グループのリーダー格のHさん、本名は日高敏夫さんである。製鉄会社出身の日高さんは現在、経営コンサルタントとして、サラリーマン時代の営業職を通じて培った新興国での投資のノウハウや人脈を生かして、日本と海外拠点のベトナムを行き来する多忙な生活を送っている。
ベトナムでのビジネスにかかわるようになって20年近くがたつ日高さんはこの間、ベトナムの文化や生活、食べ物、国民性、少数民族が暮らす個性ある地方などに魅せられ、海外での活動拠点をこの国に定めることになった。日本の企業では海外の駐在員になっても、4年か5年で任期を終え、本社に戻るというのが大半で、日高さんのように、長期にわたってある国に足場を築くケースはまれだ。普通の駐在員がその国の表向きの顔をようやく知った段階で帰任するとすれば、日高さんの場合はベトナムという懐の深い国の表も裏も見続けたといえるかもしれない。
そのような経験をした人の手になるベトナム事情紹介コラムが読者にとっても興味深いものになるのは自然の成り行きだろう。加えて、日高さんは若い時分に新聞記者志望だったこともあって、ベトナムで見たこと、聞いたことを自らの文章、写真を通じて伝えたいとの熱意が人一倍あるように見受けられる。

アオザイとノンバイトーで通学する女子高生
文章の途中や末尾にベトナム語の唄のフレーズやことわざを必ず添えるのは、ベトナムの文化と切り離せない言語表現を紹介しつつ、理解を深めてもらいたいとの意図によるものだろう。
日本ではあまり知られていないベトナムの古きよき時代と、変化の激しい現代の実際の生活の双方を描く日高さんにはエッセイストとして大きな夢がある。連載しているコラムが目標とする本数の達したら、一冊の本として上梓したいという強い希望だ。経営コンサルタントと物書きの二足のわらじを履く76歳は若々しくて、羨ましい。何とか、夢のお手伝いもしたい。