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第195回 大相撲の現在とムエタイ 伊藤努

第195回 大相撲の現在とムエタイ 伊藤努

第195回 大相撲の現在とムエタイ

長年の大相撲ファンで、小学生のころの栃若(栃錦、若乃花両横綱)全盛期から柏鵬(柏戸、大鵬)時代以降、土俵のさまざまな勝負を熱心に見てきたが、近年続く横綱白鵬らモンゴル勢をはじめとする外国出身力士の上位進出と活躍ぶりには、昔を知るだけに隔世の感を禁じ得ない。国技とされる大相撲でもこのありさまなので、スポーツの世界はやはり実力の世界であり、国籍はあまり関係ないのだと改めて知る。

国際ニュースを主にカバーする記者人生を送ってきたので、日本にいる限り、格闘技の取材などをすることはなかったが、欧州に駐在していた頃、海外で開催された柔道の世界選手権を何度か取材する機会があった。そこは柔道の専門家でない悲しさで、記者席の目前で繰り広げられる日本人選手たちの激しい戦いぶりを簡潔かつ正確に原稿にする苦労を味わったが、同じ記者席の隣にロサンゼルス五輪の金メダリスト、山下泰裕コーチ(当時)がいて、原稿を書く上で貴重なアドバイスを得られたのは幸運だった。

1988年に当時の西ドイツのエッセンで開催された柔道の男女世界選手権の際には、報道各社とも日本から格闘技専門の記者が出張し、カバーしたこともあって、取材・送稿が一段落した後に、出張組の他社の記者たちから格闘技取材のあれこれを聞くことができたのは、個人的に大いに勉強になった。

仕事が一段落した後、西ドイツ産白ワインの杯を傾けながら、酔いに任せて、専門記者の方々が日々取材している大相撲と日本代表選手レベルの柔道という2つの格闘技の厳しさの違いを聞いてみた。異口同音に返ってきた言葉は「稽古や本番の勝負の厳しさは大人と子供の違いがある」という意外なものだった。もちろん、大相撲の方が格段に厳しいという見方である。

世界に一足早く広がった柔道の世界では、男子でも女子でもトップレベルの選手は外国出身者が何人もいるが、遅れて開放した大相撲も、国技とはいえ、実力のある者切磋琢磨した結果、柔道と同じように外国人選手が上位を占めるようになったというだけなのだろう。

大相撲の横綱、大関クラスの外国人力士には、日本の相撲に似たモンゴル相撲の実力者に加え、欧州のレスリングや柔道の世界で活躍した経歴の持ち主が多い。相撲も広い意味で格闘技とみれば、異種スポーツの実力者が大相撲で勝つコツを覚えれば、白星を重ね、出世していくのもうなずける。ここは、日本人力士のハングリー精神と切磋琢磨が足りないとみた方がよさそうだ。

大相撲と同様、タイの国技とされるのがムエタイ(タイ式ボクシング)だが、ムエタイのチャンピオンは今も、各階級でタイ人選手が死守している。かつての栃若時代や柏鵬時代のようにタイ人選手の間にハングリー精神と本家の自負がまだ健在なのだろう。

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