1. HOME
  2. 記事・コラム一覧
  3. コラム
  4. 第183回 「研究者の卵」への呼び掛け 伊藤努

記事・コラム一覧

第183回 「研究者の卵」への呼び掛け 伊藤努

第183回 「研究者の卵」への呼び掛け 伊藤努

第183回 「研究者の卵」への呼び掛け

このコラムでも時々、その一端を紹介しているが、今年もまた、勤務先の夏休みを使って関西にある大学院の集中講義に出掛けてきた。国際文化学研究科の博士課程前期(修士課程)の学生が受講生なので、学部の学生よりは学問に強い関心を持つ院生相手の講義・演習だが、筆者が一方的に教えるというスタンスではなく、丸1週間、15コマある授業ではなるべく自由討論の時間を設け、その議論がとても刺激的だ。長く続けられているのは、テーマである「メディアと異文化理解」について学生たちにも知的関心があるからだろう。

国際文化学という大きな研究対象の枠組みや方法論はありながらも、毎年の受講院生たちの修士論文のテーマや学問的な関心は多岐にわたり、かつ専門的だ。「イタリア北部同盟の政治戦略」「新生クロアチアの文化政策」「中国の朝鮮族に対する言語政策」……。留学生を含む受講生の修士論文のテーマの一部を紹介したが、こうした専門的な分野を研究する学生たちに参考になる授業とは、という観点から講義するにはかなりの注意を要する。

そこで考えたのは、自ら関心を持つ専門的分野を研究し、独創的な論点を提起する重要性はよく理解しつつも、修士課程レベルの時期は、学問的な関心の周辺の事象や、より広く全体性の中で研究の意味合いを位置づける意識を持ってもらいたいということだった。重箱の隅をつつくような研究や、自らタコツボに入り込むような学問的な態度は避けてほしいとの呼び掛けである。
研究者としての訓練を受けていない単なる記者経験者としての不遜な態度とのお叱りを受けるかもしれないが、報道の世界で長く生きてきた者としては、やはり、現実世界との接点を常に意識してもらいたいとの気持ちがある。そのような思いが、上記のような学生への訴えになるのだろう。

講義は15コマもあるので、自らの取材経験を含め、いろいろなことを話しているが、端的に言えば、国際文化学研究科で学問の道を歩み始めた諸君には、国内外の出来事、事象に関心を持ち、常に自らの研究対象と関連づける訓練をしてほしいということだった。その際の便利で有益なツールは新聞やテレビ・ラジオなどの良質な報道に日々接することであり、今の若者が使いがちなインターネットの情報に依存することの戒めだ。

「新聞を読むことの大切さを教えられました」・・・・・。講義の最後に学生たちに感想を聞くと、こういう返事が多い。毎年のことだが、集中講義をしたことの手応えを感じる瞬間でもある。

タグ

全部見る