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第180回 スー・チー氏の初の議会演説 直井謙二

第180回 スー・チー氏の初の議会演説 直井謙二

第180回 スー・チー氏の初の議会演説

今年7月下旬、ミャンマーの民主化指導者のスー・チー議員は初の議会演説で少数民族保護を訴えた。

スー・チー議員はミャンマーの少数民族の貧困率が高いことなどを指摘し、民主主義国家は国民の一体性と平等な相互尊重が不可欠だと述べた。

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年代末、スー・チー氏の自宅でインタビューしたことを思い出した。

筆者が「山岳民族」が新憲法ではどのような扱いが望ましいかと質問した。するとスー・チー氏は「山岳民族」とは「少数民族の」のことなのかと聞き返してきた。少数民族のほとんどは山岳部に住んでいるが、確かに一部の少数民族はヤンゴンなど都市部にも住んでいる。スー・チー氏の答えは他の質問とは異なり、声のトーンが高くなっていたことも記憶している。

ミャンマーには国民の7割を占めるビルマ族のほかにシャン族やカレン族など50以上の少数民族が3割を占めている。長い間、民族紛争が続き、軍事政権時代は激しい戦闘が繰り広げられたが、今でもイスラム教徒のロヒンギャ族は弾圧を恐れ、難民化している。民族紛争は戦後特にひどくなった。植民地時代にイギリスは民族同士の軋轢を利用し、カレン族を重用、そしてビルマ族市民を圧迫した歴史がある。このためカレン族にはキリスト教徒が多い。ビルマ族の市民がカレン族を容易に受け容れず、カレン族も他の少数民族に比べて政府に強硬で長い間国軍と戦闘を交えてきた(写真)。

民族や宗教の違うアジア人同士の確執を利用し、植民地を支配したイギリスの禍根はミャンマーだけでなくインドやスリランカなどで見られ、インドのカシミールで起きているイスラム教徒とヒンズーの教徒の戦闘はいまだに続いている。

イギリスでの生活が長かったスー・チー氏が真っ先に少数民族問題を取り上げた。80年代の終わりに密かにカレン族支配地区を取材した。故ボーミヤ議長以下整然とした政府組織と軍があり、故ボーミヤ議長はカレンの独立が達成されるまで戦闘を続けると語っていた。

その後カレン族は国軍に追い込まれ、ミャンマー領内の拠点を失った。

ミャンマーの突然の民主化、それに欧米ASEAN寄り路線は戦略的にも経済的にもミャンマーの軍事独裁政権に近づいていた中国に少なからず衝撃を与えた。
ウィグルやチベットなど少数民族問題に悩む中国、スー・チーが真っ先に少数民族問題を取り上げたことを中国はどう見ているだろうか。


写真1:カレン族も他の少数民族に比べて政府に強硬で長い間国軍と戦闘を交えてきた

《アジアの今昔・未来 直井謙二》前回
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