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第181回 特派員の重要な仕事は「紙取り」 伊藤努

第181回 特派員の重要な仕事は「紙取り」 伊藤努

第181回 特派員の重要な仕事は「紙取り」

今もそうだろうが、国際会議を取材する際に重要な仕事の1つは、会議終了後に発表される共同声明や決議の草案の事前入手である。サミットしかり、国連安保理しかりで、東南アジアに駐在する記者にとっては、年に何度も開催される東南アジア諸国連合(ASEAN)の関連会議で採択ないしは発表される共同声明ということになる。

ASEANでは毎年、首脳レベルの会議や閣僚クラスの会議が幾つも開催されるが、どの会議でも事前に関係各国の高官レベルによる折衝があり、その後の首脳・閣僚会議の準備に当たる。この高官レベルでの協議がその後の会議の方向性を決めることになり、各国の次官・局長クラスが草案を練る。この草案が出来上がるのが実際の会議の数週間前で、記者にとっては、この最初の草案入手が大きな仕事となる。

もちろん、共同声明の草案段階では、各国でまだ合意が得られていない重要事項については、大雑把な表現になっていたり、空欄だったりするケースが多い。しかし、そのような穴だらけの草案であっても、それを一読すれば、何が会議での対立点となっているのかが分かり、会議の行方を占う上では重要な情報ということになる。

以前、バンコクに駐在していた際、任務の関係でASEANの首脳・閣僚会議のほとんどは現場で取材しなければならなかったため、助手を使って声明草案の事前入手に力を入れた。業界用語では、「紙取り」というが、A4版の紙でわずか数枚のこの声明草案を持っているかどうかで、会議への食い込みは随分と違ってくる。ただ、注意すべき点は、実際の会議までの事前折衝の段階で草案は書き換えられていくので、最新の草案を常に入手していなければ、正確な予測・見通しは難しい。あるときは、古い段階の草案を基にして会議の見通し記事を書いたところ、親しい同業他社の特派員氏から「伊藤さん、それは古いバージョン(版)だよ」とけなされてしまった。指摘してくれた特派員氏は声明草案の最新版を持っていたのである。

余談となるが、声明草案を入手しやすい国というのがあり、その国の高官を狙うのも1つの手である。東南アジアではこの国がどこか分かりますか。筆者の経験則だが、ガードが一番甘いのは、フィリピンで、次は駐在していたタイといったところであろうか。もう十数年前のことだが、フィリピンの外相は非常に親日的な政治家で、夫人も日本人だった。日本の記者にも甘かったのかもしれない。

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