第161回 ミャンマーの巻きスカート「ロンジー」 伊藤努

第161回 ミャンマーの巻きスカート「ロンジー」
バンコクに駐在していた当時、守備範囲であるベトナムやミャンマー(ビルマ)など周辺国に仕事でよく出張に行ったが、今回は出張先で頂戴した変わった贈り物、プレゼントを紹介したい。ベトナムの女性がよくかぶっている「ノン」と呼ばれる菅笠やミャンマーの男性の正装でもある巻きスカートの「ロンジー」、竹で編まれた枕といろいろである。贈る側は良かれと思ってわざわざプレゼントしてくれたのだが、日本人男性の筆者には、こうした贈り物を使うにはやはり勇気が要る。結局、せっかくということで、バンコクの自宅に持ち帰ったものの、しまい忘れてどこかに行ってしまった。
この中でも特に驚いたのがロンジーである。ズボン姿を見慣れた者にとっては、ミャンマー人男性のほとんどが筒型の布地で出来た巻きスカートを愛用していることが最初のうちは不思議だった。上半身はワイシャツ姿だが、下半身はこのロンジーを結わいて巻き、足は安価なサンダル履きというのがヤンゴンの平均的な男性のいでたちだ。
男たちはいずれもお腹あたりに丸い塊の結び目ができる形でロンジーをはいているのだが、歩いたりしていて結び目が緩くなると、立ち止まっては、またきつく結び直す。ロンジーを知らない者には、激しい相撲をとる力士の褌(ふんどし)のように、緩んだりしたら、ロンジーがほどけ、下半身が丸見えになってしまうのでは、と心配してしまう。
確認はしていないが、ロンジーを着ている男性の十人に何人かは、それが粋な着方ということで、下着を身につけていないという。知らずのうちにはだけてしまったら、公然わいせつ罪に問われないのかどうか。1990年代後半の一時期、民主化運動指導者のアウン・サン・スー・チーさんの自宅前で毎週末に開かれていた市民集会は大変な熱気に包まれていたが、この時の大勢の集会参加者のロンジー姿は忘れられない。その光景はミャンマーでの出来事として鮮明に思い出すことができる。
さて、ロンジー姿など絶対に似合わない筆者に、かなり上質と思われるこの巻きスカートをプレゼントしてくれたのは、この国への出張のたびに常宿の予約手配などをしてくれた地元旅行代理店の女性スタッフだった。頂戴した後、ホテルの自室に戻り、教えてもらった通りにロンジーをはいてみようとしたが、ゆるゆるのはき方で、街で見掛けたミャンマーの人たちのようにピタリと決まらないのである。日本文化に関心を持つ外国人が羽織はかまや着物をうまく着こなせないのと同じかもしれない。
だが、ロンジーは着物などよりもはるかに簡単なつくりである。ご紹介したおかしな記憶が薄れないところをみると、出張・旅の良い思い出となった贈り物だったのかもしれない。