1. HOME
  2. 記事・コラム一覧
  3. コラム
  4. 第145回 中国の論客女性学者とその後継者 伊藤努

記事・コラム一覧

第145回 中国の論客女性学者とその後継者 伊藤努

第145回 中国の論客女性学者とその後継者 伊藤努

第145回 中国の論客女性学者とその後継者

ジャーナリスト訪中団のメンバーとして、毎年1回、中国を取材する際に座談会を開く中国社会科学院日本研究所の論客のWさんが現在、早稲田大学で研究留学をしている。北京ではお世話になっているWさんを歓迎し、激励しようと、先ごろ都内のレストランに有志数人が集まり、食事をしながらの囲む会があった。同行してきた若い女性はWさんのお嬢さんで、現在、早大大学院に留学しており、母娘が日本の同じ大学で学問に取り組んでいることになる。

そんな和気あいあいとした歓談の場だったはずだが、会話が始まると、賓客は中国の政府系政治学者、こちらはメディア出身の大学教授や現役の記者ということで、丁々発止の議論、質疑応答となってしまった。翌日、メールを送り、非礼をわびたが…。

座談会で発言するWさん(左端=筆者撮影)

それはともかく、われわれ日本側の記者仲間では、Wさんを中国版の「鉄の女」というニックネームを付けて呼んでいる。というのも、2011年夏の訪中の際の座談会では、討論の口火を切る形で、日中両国間の懸案となっている尖閣諸島問題について、「釣魚島(尖閣諸島の中国での呼称)は中国の領土であり、自衛隊が釣魚島に上陸すれば、戦争になる」などと、強硬発言がポンポン飛び出したからだ。そんなこともあって、今回はアウェーの北京からホームの東京に場所を変え、Wさんに論戦を挑むような雰囲気となっていたのである。

哲学博士で教授の肩書を持つWさんは今回の研究留学で、中米日関係(日本風に言えば、日米中関係)をテーマにしており、自然な流れで日中関係と日米関係、米中関係をめぐる議論となった。Wさんの最大の関心は、日本はなぜアジアの国なのに、中国、韓国など東アジアの国々との関係をもっと重視せず、日米関係は日本外交の基軸と言って対米重視の姿勢を堅持するのかという点にあった。北京での座談会では、「日本がアジアに目を向けないのであれば、中国は独自に中華圏をつくる」といった趣旨の発言をしており、東京でも発言にブレはない。Wさんの疑問に対し、日本側の各人がさまざまな視点から丁寧に説明したが、議論はやはり平行線をたどった。

「中日両国の関係をどうするか、やはり難しい問題ですね。時間がかかります。一人娘を日本に留学させ、日本について勉強させているのは、日本の専門家である私の後継者になってほしいからです」--。食事の合間にこう話すWさんの長期的な戦略思考に一同は感心するとともに、母親としての喜び、胸の内も垣間見え、「鉄の女」の印象を少しばかり変えた。

タグ

全部見る