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第143回 「教え子」のビジネス戦士との再会 伊藤努

第143回 「教え子」のビジネス戦士との再会 伊藤努

第143回 「教え子」のビジネス戦士との再会

先日、関西にある大学院で数年前に筆者の集中講義を受講した元院生のS氏が都内の勤務先を訪ねてきた。大学院生といっても年配の社会人なので、講師のわたしよりも年長で、米国での駐在が長く、国際ビジネス戦士と言ってもいい経歴の持ち主である。そんな彼は会社ではもう十分に満足のいく仕事をしたとして、50代半ばに自らの選択で早期退職を決断し、国際文化学を学ぶために関西の大学院の門をたたいたのだった。

学問への熱い志望動機を持っているため、修士課程の2年間は、家族とも別れて大学近くに下宿を借り、寝食を忘れて大学院研究科での講義・演習、修士論文作成に積極的に取り組んだことを本人から聞いていた。性格はエネルギッシュ、かついろいろなことに好奇心が旺盛で、勤務していた大手電機会社でも有能なビジネスマンであることが講義・演習の際の討論などを通じてうかがい知ることができた。大学院の講義・演習では、社会経験が豊富な社会人学生がいると、学部上がりの若い院生たちにも刺激となり、議論が深まる。S氏の存在はその好例だった。

後日、「新中国の原子力開発政策」をテーマとする修士論文を完成させ、修士課程を修了した後、台湾の国立大学に講師として招聘され、台湾の若い学生たちに国際ビジネス論を講じているとの連絡をもらった。S氏が筆者を訪ねてきたのは、台湾の大学での講義が終わり、かつての勤務先の電機会社に請われて復職したので、そのあいさつとのことだった。こうした形での古巣の会社への復帰は極めて異例で、それだけ有能であることの証しでもあろう。

S氏出版の国際ビジネス書の表紙。タイトルが3カ国語

前置きが長くなったが、ここで紹介したかったのは、S氏が自らのビジネス哲学を持ってかつての勤務先の電機会社に復帰したことを知ったからである。台湾の大学で講師を務めていた短い期間に書き上げた「成功する国際ビジネス」という題名の分厚い著書(日本語、英語、中国語の3カ国語)には、ビジネスに携わる者の心得、価値観として「人の暮らしや社会に貢献できない技術や知識は価値がない」「アフターサービスが良くない製品を売ることはごみを売ることと同然である」と大書している。

偶然かどうか、復職した電機会社でのS氏の任務は、自然災害や報道業務、海上交通路(シーレーン)の安全航行といった分野で活躍が期待されるかなり高額の最先端機器である。会社の戦略商品を日本を含む国際市場に投入し、なおかつ上記の2つの価値観を実践すること。自らに課した高いハードルを越えるべく、S氏の新たな挑戦が始まった。

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