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第133回 ミャンマーの小さな変化 伊藤努

第133回 ミャンマーの小さな変化 伊藤努

第133回 ミャンマーの小さな変化

軍政が長く続いたミャンマー(ビルマ)で今年3月、「民政移管」をうたった総選挙の実施を受けて、軍服を脱いだテイン・セイン大統領をトップとする新政権が誕生した。議会も内閣の顔ぶれも軍出身者、親軍派が大半を占め、権力構造はほとんど変わっていないが、新政権発足後に現地から伝えられる情報をみると、アウン・サン・スー・チーさんへの対応を含め、民主化勢力に対する新政権の姿勢には変化が出ているようだ。これが何を意味するのか、ミャンマー情勢に精通している日本人外交官、M氏の分析を参考にさせていただきつつ、現時点での私見を紹介したい。

M氏によると、新政権が民主化勢力に対する融和とも見えるスタンスを取り始めた背景には、2014年の東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国問題がある。ASEAN議長国は加盟10カ国による1年ごとの輪番制で、一度辞退したことがあるミャンマーが14年の議長国就任を求めている。しかし、民主化問題で欧米諸国を中心に強い批判を浴びている国が重要な議長職に就くことに、反対ないしは難色を示す声が上がるのは自然の成り行きだ。クリントン米国務長官も反対を表明し、ASEAN側をけん制している。

2015年に政治、経済統合の節目となる「ASEAN共同体」を創設するASEAN加盟国の間からは、その前年という重要な時期に、国際的な外交実績に乏しいミャンマーが重責を担えるのか懸念する声が聞かれる。加えて、共同体創設を機に国際社会での存在感をさらに高めようとするASEANがミャンマーの議長国就任を認めることで、ASEANの信頼や威信を傷つけることを懸念する向きもある。

新政権が大統領とスー・チーさんの会談をセットしたり、遠隔の地にある新首都ネピドーでの新国会の審議の様子を外国メディアに取材させたりといった融和姿勢を見せるのは、この国なりの民主化への取り組みを内外にアピールするためにほかなるまい。以前は国営メディアで酷評していたスー・チーさん関連の書籍の販売や発言の報道が許可されたのも、従来とは様変わりと言っていい。

だが、これらの変化は「真の民主化」という物差しで測れば、まだ枝葉末節のことにすぎない。国民に広く支持されているスー・チーさんが指導者になる道が新憲法で閉ざされているほか、2000人といわれる政治犯の解放も全くめどが立っていない。

冒頭に紹介したM氏は、2014年にミャンマーがASEAN議長国になることは「100%あり得ない」と言い切った。ミャンマーでの風向きの変化をいましばらく注意深く見守る必要がありそうだ。

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