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第134回 米越軍事演習とベトナム戦争 直井謙二

第134回 米越軍事演習とベトナム戦争 直井謙二

第134回 米越軍事演習とベトナム戦争

ベトナム戦争を知る者にとって、この夏ハノイで繰り広げられた反中国デモは時代の流れを感じさせる。

共産主義の脅威をドミノゲームに例え、ベトナムが共産主義勢力によって統一されれば、世界中が共産化すると恐れるアメリカは50万人にも及ぶ海兵隊を当時の南ベトナムに送り、第2次大戦で使用された総爆薬量の2倍以上の爆薬を、狭いベトナムで爆発させた。

ベトナムは旧ソ連と中国の支援を受け、ベトナム戦争に勝利したが、アメリカ軍兵士戦死者がおよそ6万人なのに対し、ベトナムの死者は民間人を含め130万人に上った。ハノイの戦争博物館には、戦争中に撃墜したアメリカ軍の爆撃機や戦闘機とともに、当時、中国が供与した兵器が展示されている。 (写真)

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中国の海洋進出で緊張が高まる南シナ海をめぐる領有権争いは、ベトナムの戦略を180度変えた。尖閣諸島では1人の中国漁船の船長の逮捕をめぐって日中に深い溝ができたが、南シナ海では中国によるベトナム漁船の拿捕が相次ぎ、40人以上の漁民が抑留されたままだ。

歴史を振り返れば、ベトナムは中国に1000年にわたって植民地支配され、30年前に中越は国境を挟んで砲火を交えた。それでもベトナム戦争を知る世代には、35年の時の流れと情勢の変化に戸惑いを感じざるを得ない。

2010年8月には中国を仮想敵国とする米越合同軍事演習が行われた。空母「ジョージ・ワシントン」を繰り出しての演習は、ベトナム戦争の風化とベトナムの中国に対する根深い警戒感を象徴的に表している。

筆者は10年ほど前、ハノイ支局長を兼務していた。ベトナム人の助手から「ベトナム戦争は学校の授業でしか習ったことがない。戦争のきっかけとベトナムが勝利した理由を聞きたい」と言われ、言葉を失った。
報道機関の助手は日本の外務省に当たる外務委員会から派遣されてきたエリートだ。それでもベトナム戦争について確たるイメージが描けない様子にベトナム戦争が遠くなったと感じた。

ベトナム人にとってみれば、中国との確執は1000年以上続き、大国中国がいつ圧迫してくるか分からないのに対し、アメリカとの戦闘はわずか20年に満たないということなのかもしれない。

大国中国の文化圏にあるベトナムと日本。長い間、中国と深い関係を持ち、時に砲火を交えたこともある両国。一度はアメリカと戦闘を交えながら現在は軍事を含めてアメリカとの関係を強めている点など、日越両国の共通点は多い。


写真1:ベトナムに供与された中国製の軍資材

《アジアの今昔・未来 直井謙二》前回
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