第105回 NZ地震の被災者を通じて知ったこと 伊藤努

第105回 NZ地震の被災者を通じて知ったこと
最近の日本の若者は内向き思考で、学生時代に海外に留学したり、就職しても海外勤務は嫌う風潮が強まっているといった報道を目にすることが多い昨今だ。だが、2月下旬にニュージーランドで起きた大地震の被災者の中に、現地に語学留学していた若い学生や現役の看護士といった日本人の方々が多数含まれていたことから、一般的な世評とは違って、将来は外国で活躍したいという大きな夢や高い志を持った日本人がまだまだいることが、悲しいニュースを通じて知るところとなった。
筆者の世代は、「海外に出て何でも見てやろう!」といった作家の小田実氏(故人)らの檄に踊らされて、アルバイトで貯めたお金を使って海外での見聞を広げた連中が多かった。少し後の世代は、バックパッカーとして世界各地を放浪した。それから三十年近くがたち、日本が経済発展してそれなりに豊かな国になったからだろうか、1990代初めのバブル崩壊以後の「失われた20年」の時代を経て、近年は、内向き志向の多数派集団と、ニュージーランド地震での日本人犠牲者に見られるような海外飛躍を夢見る少数派のグループに二極分化しているようにも思われる。
経済のグローバル化や航空機・情報通信の発達に伴い、地球が距離的にますます小さくなり、国境の垣根も低くなれば、人の移動や交流が増え、日本の若者たちが海外に出て行くのも自然の流れと考えがちだが、そうならない背景には幾つかの要因がある。

バンコク市内の様子。 日本人にとっても生活しやすい都会だ。
内向き志向の若者が増えている第2の理由としては、子供の時分から携帯電話やゲーム機器にどっぷり浸かり、他人との生の接触やコミュニケーションを図る機会が少なく、それが不得手という事情も絡んでいるのではないか。文化や生活習慣、言葉も違う外国人であれば、意思の疎通はもっと面倒だ。
ここまで書いてきて、筆者が昔、駐在していたタイの首都バンコクには、これといった目的もないままに居ついて、勝手気ままに暮らしている日本の若者がたくさんいたことを思い出した。今もかなりの数でいるらしい。年金をもらっている高齢者も少なくないという。こういうのは日本脱出組、いや、もっと楽をするという意味合いを込めてニッポン・ドロップアウト組とでも名付ければいいのだろうか。