第95回 杉良太郎さんとベトナム 伊藤努

第95回 杉良太郎さんとベトナム
テレビの時代劇などで一世を風靡した俳優で歌手でもある杉良太郎さん(66)をご存知の方は多いだろうが、途上国を中心とした民間外交や福祉といった分野でも重量級の活動をしていることを知る人は少ないのではないか。一時、テレビの時代劇にはまったことのある筆者は、杉さんが出演した番組はほぼ見ているが、「右門捕物帖」「新五捕物帳」の主人公の同心や十手持ちの役柄を含め、「人情に厚い正義の人物」を演じていたことが共通していたように思われる。
そんな杉さんに最近、都内の事務所でインタビューする機会があった。「俳優の杉良太郎」ではなく、日本、ベトナム双方の友好大使を務める「民間外交官」としての杉氏にである。
杉さんとベトナムのかかわりは22年ほど前にさかのぼるが、それ以来、訪問回数は50回を軽く超えるそうだ。この間、自らのチャリティー公演など両国の文化交流に尽力する一方、孤児院にいる幼い子供を養子にして、里親として物心両面から支えたり、日本語学校を立ち上げたりと、さまざまなボランティア活動を文字通り手弁当で続けてきた。手弁当代は、驚くほどの額だ。

杉良太郎氏(都内の事務所で=写真提供:「杉友(サンユウ)」)
「なぜ、これほどまでにベトナムに強い関心を寄せるのか」と聞くと、初めてベトナムを訪問したときの「フィット感」に加え、「昔の日本人に出会ったという印象が強く、国民の純粋さや信義の厚い国に感銘を受けたからだ」と語った。さらに、「ベトナムがこれからけがれのない国として伸びていってほしい」と、いわばベトナムという国に「一目ぼれ」したことを吐露した。これが単なる一目ぼれに終わらず、孤児院の子供ら40人以上の里親として、愛情を注いで育ててきたことを挙げるだけでも、ベトナムに寄せる心情の深さがうかがえる。
杉さんは、公園に寝泊りするしかないホームレスの人たちに無関心な最近の日本人や、この問題に真正面から向かい解決策を講じようとしない現在の政治にも痛烈な批判を加える。一家言を持つ福祉のあり方について、杉さんの考えを伺うと、「見返りを求めてはならない」と前置きした上で、「お金のある人は寄付を、お金のない人は時間の寄付を、両方ともない人は、福祉活動に従事する人に拍手をし、理解してほしい」と答えた。杉さんが説く「福祉の心」を多くの日本人が持てば、新しい年は少しは明るくなるのではないだろうか。(次回に続く)