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第96回 スラムの天使プラティープさん 直井謙二

第96回 スラムの天使プラティープさん 直井謙二

第96回 スラムの天使プラティープさん

タイのスラム街で恵まれない子供たちの教育などを長年支援してきたプラティープ・ウンソムタム元上院議員が今年初め、日本から帰国した。

去年の5月、貧しい東北タイなどからバンコクに上京したタクシン元首相を支持するグループが、アピシット政権の退陣と総選挙を求めて2カ月間にわたってバンコクの中心街を占拠した。軍は強制排除に踏み切り、タクシン支持グループと衝突、大勢が死傷する流血事件になった。

プラティープさんは、スラムにも広がったタクシン派の反政府行動に共鳴し、集会に関与したとして逮捕状が出された。プラティープさんは、近畿大学に勤める日本人の夫の秦辰也さんが住む大阪に身を寄せていた。昨年末、政府が非常事態宣言を解除したため、逮捕状も取り消され、8カ月ぶりの帰国を果たした。

プラティープさんはスラムの教育に貢献したとして、若くしてアジアのノーベル賞と言われる「マグサイサイ賞」を受賞し、注目されていた。

30年ほど前になるが、筆者が駆け出しのテレビ局外報部員だったころ、プラティープさんについて朝のニュース番組で扱った。プラティープさんはスラムの子供たちが1バーツ(当時のレートで1バーツ=10円)を支払えば授業が受けられる「1バーツ学校」を運営していた。

ニュースは曹洞宗ボランティアで活躍する日本の若者、秦さんらが「1バーツ学校」を訪れ、紙芝居やお話でタイの子供たちを喜ばせたという内容で、タイトルは「お話キャラバン、タイを訪問」だったと記憶する。

1985年にバンコク支局勤務になり、改めてプラティープさんを取材した。ある日、支局に結婚式の招待状が舞い込んだので驚いた。秦さんとプラティープさんは「お話キャラバン」の活動をきっかけに愛を実らせ、結婚するという。結婚式は簡素だったが、心のこもったもので、今でもローソク立ての引き出物を持っている。

逮捕状について、ご本人は「政治的な意図はなく、傷ついた人たちを放っておけない気持ちから行動した」と述べている。

プラティープさんの温かい性格は身を持って感じている。96年、2度目のバンコク赴任となったが、子供の教育の関係で単身赴任となった。年末年始を家族と離れて過ごす羽目になったが、プラティープさんと秦さんは毎年、寂しく1人で年を越す筆者を自宅に招いてくれた。(写真、手前が筆者、右側がプラティープ夫妻)

第168回 直井.jpg

各国の記者とともに筆者も、スラムに隣接するクロントイ港に停泊する船が新年を告げる霧笛を聞きながら正月を迎えた。


写真:プラティープの自宅で新年を迎える(手前が筆者)

《アジアの今昔・未来 直井謙二》前回
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