第97回 俳優兼民間外交官の手柄 伊藤努

第97回 俳優兼民間外交官の手柄
前回に続いて、俳優の杉良太郎さんとのインタビューの際にお聞きしたベトナムとのかかわりについて書きたい。
あちこち訪ねたアジア諸国の中でも自分の感覚に「一番フィットした国」ということが引き金になってベトナムでの支援活動にのめり込んでいった杉さんに、日越両国の交流のあり方について聞くと、「現在の戦略的パートナーシップでやろうという関係を乗り越えて、ベトナムとの関係を(日本にとっての)準同盟国に発展させるべきだ」と、一歩踏み込んだ答えが返ってきた。「準同盟国」という用語はあまり聞き慣れないが、要は、米国のような同盟国と、戦略的なパートナーシップ関係にある友好国との中間に位置するような「極めて重要かつ緊密な友好国」といった意味合いと解釈した。
杉さんは「ベトナム準同盟国論」を唱える理由について、(1)日本にとっての準同盟国とする価値がある国だ(2)ベトナムの指導者自身、日本語が話せる国にしたいと語っている(3)文化と習慣があまりに似ている(4)ベトナムがフランスとの独立戦争に勝利した後、70人の日本人兵士が残り、ベトナムに正規軍が誕生する基礎をつくった--といった点を列挙。その上で、これらの日本人はベトナム人女性と結婚し、平和のために戦ってきたというエピソードを紹介した。

杉さんは、多くの少数民族の子供を里親として育てた(写真撮影 梶川知子)
こうした見方をする背景には、私心なく、ぞっこん惚れたこの国とのかかわりの中で培ってきた民間外交の成果に対する杉さんならではの自信があるに違いない。
昨年9月、尖閣諸島問題をめぐって日中関係が険悪になり、中国からのレアアース(希土類)の輸出がストップした直後、杉さんは日本政府からのたっての要請で、ベトナム要人との会談実現のお膳立てをし、レアアースの資源が豊富な同国からの安定供給確保の言質を取り付けることができた。要人との会談実現の調整はかなり難しい仕事だったが、「頼まれた以上は仁義を切らなくてはならない」と奔走したという。何か時代がかった台詞は、長年の時代劇俳優の名残かもしれない。
「日本は必ずベトナムに助けられる時が来ると考えていたが、言っていた通りとなった。助けてもらいたい。今は助ける時だ。うれしい時代が来たのではないですか」--。ベトナムの関係大臣たちを動かした杉さんの決め台詞は、名外交官のそれである。