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第87回 「隣国関係」考 伊藤努

第87回 「隣国関係」考 伊藤努

第87回 「隣国関係」考

尖閣諸島沖での中国漁船による海上保安庁巡視船への体当たり事件をきっかけに、日本と中国の関係が一挙に冷却化した一連の事態を見ると、隣国との良好な関係維持の難しさを改めて実感する。特に、国力や人口などが同規模にある場合や、過去に戦争や領土争いをした隣国同士であれば、それぞれの国民が相手国に対して不信感や敵愾心を抱いたり、好感をなかなか持てないのは、人間関係にも当てはまるかもしれない。 

良い意味でのライバルを表す言葉として好敵手があるが、国民の多くが隣国に対してそうした感情を持つことができれば、隣国関係は安定し、改善に向かうだろう。小泉首相の靖国神社参拝で冷え切った日中関係が同首相の退陣後、新たに「戦略的互恵関係」を結んだ数年間の両国の関係は、相手国を好敵手と思っていた時期と言えるのではないか。互いの国民感情も好転した。だが、その基盤も極めてもろいことが、今回の尖閣問題の一件で浮き彫りになった。

日中関係に限らず、韓国、ロシアなど日本と隣国の関係は残念ながら、必ずしも良好とは言えない面が多々ある。北朝鮮とは国交もないありさまだ。その責任の大半はやはり先方の政治体制にあると断じざるを得ないのだが…。それはともかく、近年、韓国との関係が国民レベルを含めてかなり改善してきたのは、双方がそれぞれの良い点を認め、相手の長所に気づき、好敵手としてみるようになったことが大きい。日本での韓流ドラマの大ヒットは、何十人もの外交官の働きに匹敵する。ただ、竹島の領有権問題をめぐっては、ナショナリズムが一気に燃え上がり、主張は平行線のままだ。領土問題は主権をめぐる争いだけに、双方が満足する解決は難しい。

もう1つの隣国であるロシア、冷戦時代のソ連との関係は、第2次大戦末期の中立条約を無視しての対日参戦や北方領土の不法占領、冷戦期の仮想敵国といった事情などが複雑に絡み合って、日本人一般の対ロシア観は良いとは言えない状況が続く。

しかし、広く世界を見渡せば、欧州、アジアを問わず、さまざまな組み合わせがある隣国関係は決して良好とは言えず、互いに我慢し合いながら、表向きは波風を立てずにさまざまな交流を重ねているのが現実だ。南北朝鮮は同じ民族でありながら、厳しい対立が続く。国交はあっても、外交関係のレベルが低い隣国同士も少なくない。

社会主義イデオロギーが力を持っていた時代、今は消滅したソ連を盟主とする共産主義陣営は一枚岩の団結、結束を誇っているかのように演出していたが、一皮むけば、国家、民族レベルでは多くの対立の火種を抱えていたことが冷戦崩壊後に明らかになった。

グローバル化した現代世界にあっては、真の友人と呼べるような同盟国や友好国をできるだけ多く持つことは、とかくギクシャクしがちな隣国を有する場合には牽制役として有効かもしれない。換言すれば、国際社会を味方につけるような筋の通った外交戦略、情報発信が必要だ。最近の中国、ロシアの大国主義的な粗暴な外交を見た上での感想を記した。

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