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第85回 異国でのマツタケ談義 伊藤努

第85回 異国でのマツタケ談義 伊藤努

第85回 異国でのマツタケ談義

今年はマツタケが豊作で、値段も例年に比べ安いというニュースに接して、数年前のパキスタン出張取材時に交わした現地の通訳兼ガイド役、Fさんとの楽しかった会話を思い出した。この時の出張では、同国最大のパンジャブ州にあるラホールやイスラマバードなど各地を駆け足で巡ったが、途中、山あいの簡易施設で休憩を取った際、周辺の山々にアカマツらしき松林があることに気がついた。夕方になると、気温がぐっと下がり、旅行者向けの休憩施設ではマツボックリなどを燃料にストーブで暖を取った。

Fさんに、日本では香りも味もいいマツタケが大変高価なことや、年々生産量が減っているので、フィンランドやカナダといった遠い外国から輸入したマツタケが店頭に並んでいることを説明した。昆虫や岩石など自然の事象に関心が深いFさんは、筆者の話に身を乗り出して耳を傾けていたが、パキスタンにはいろいろな種類のキノコはあるものの、やはりマツタケはないとのことだった。

しかし、人里離れた山間地には松林があちこちにあり、素人考えながら、気温や湿度もキノコの生育に適している環境であれば、マツタケが育っても不思議ではないとの思いをぬぐい切れなかった。

目的地に向かう小型バスの車中でも、私たちのマツタケ談義は続き、好奇心が旺盛なFさんはマツタケという「マッシュルーム」が特に高価な理由や、日本人がなぜマツタケを好むかを聞いてきた。冷やかし半分で、パキスタンで日本市場向けにマツタケの自生地を見つけ、輸出ビジネスを興せば、百万長者になるのは間違いないと太鼓判を押した。Fさんの親友がたまたま、サイドビジネスとして養蜂業を営んでおり、実際にハチミツづくりの施設に案内してくれた。製品の純度が高く、売れ行きもいいとのことだった。そんな友人の存在もあって、マツタケ・ビジネスへの思いを断ち切れないように思われた。

Fさんはその後も、時折、メールで近況を知らせてくるが、マツタケ事業成功の連絡がないところをみると、あの時の夢物語はやはり幻に終わったのかもしれない。

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