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第37回 アフガン戦争の泥沼化 伊藤努

第37回 アフガン戦争の泥沼化 伊藤努

第37回 アフガン戦争の泥沼化

アフガニスタンでは現在、米軍や北大西洋条約機構(NATO)各国などの精鋭将兵が10万人以上が派遣され、反政府武装勢力でイスラム原理主義組織「タリバン」の戦闘員や国際テロ組織アルカイダ系のテロリストと戦っている。オバマ米政権がさらなる増派を決定せざるを得なかったことにうかがえるように、欧米軍側がタリバンに対する掃討作戦や治安確保で手こずっているというのが大雑把な戦況と言えよう。オバマ政権が対テロ戦争の主戦場と位置づけるアフガンでの戦闘の泥沼化という表現も、苦戦ぶりを表す言葉だ。

1960年代から70年代半ばにかけてのベトナム戦争時代には、「泥沼化」という表現が頻繁に使われた。この表現は文字通り、敵側の士気が旺盛で、ゲリラ戦術が功を奏し、外国軍部隊が泥沼に足を踏み入れてしまったかのように、十分な作戦を遂行できなくなっていることを指す。イラク戦争の際は、駐留米軍と新たに誕生したイラクの親米政権に敵対するイスラム武装勢力やアルカイダ系のテロリストが自爆テロ、襲撃などを繰り返し、治安確保で後手に回ったことが思い起こされる。

いずれにせよ、派遣された外国軍部隊に対し、ゲリラ的攻撃やテロが繰り返され、戦況を立て直すことが難しい状況に陥っているという点で、戦争の泥沼化は共通する。タリバンに限らず敵側の軍や武装勢力が戦いを優位に進めることができるのは、中央政府がお決まりの汚職・腐敗などで多くの国民の反発を買い、求心力を低下させていることに加え、外国軍部隊の攻撃に巻き込まれて地元市民に犠牲者が増え、反米機運が高まっている点も見逃せない。

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ペシャワール難民キャンプ

イラクでもアフガンでも、武装勢力の拠点やテロ組織幹部のアジトに攻撃を仕掛けた結果、誤爆だったり、巻き添えになったりして命を落とした民間人はかなりの数に上る。軍事作戦の犠牲者には家族もいれば、親しい友人、知人がいる。そうした犠牲者の周囲には、愛する人の死を悼み、外国軍部隊に反感や憎悪の念を募らせる何十人、何百人という人々がいよう。いったんは政権の座を追われたタリバンが再び勢力を盛り返しているのは、こうした反米(反外国軍)の機運を「追い風」にしてアフガン各地で浸透を図っているからだろう。

戦場で「憎しみの連鎖」が続く限り、反政府武装勢力の優位は動くまい。2001年9月11日の米同時テロ以降延々と続く「テロとの戦い」に限らず、戦争で勝利を収めるためには、若い兵士を戦場に派遣することの大義名分とともに、多くの人々、国民をどう味方に付けるかという心理戦の要素も大きい。

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