第33回 ヤンゴンの外国特派員協会 伊藤努

第33回 ヤンゴンの外国特派員協会
政府から制限を受けない新聞など自由なメディア(報道媒体)の存在は、民主主義体制の成熟度を測るバロメーターの1つと言える。もちろん、王室の批判は控えるといった幾つかのタブーはどこの国にもあるが、東南アジア諸国の新聞やテレビは総じて活発に報道活動を展開しているとの印象を受ける。共産党による事実上の一党独裁が続く中国やベトナムでも近年は、権力の不正に対してかなり批判的な報道も散見されるようになった。そうした中で、自由な報道が圧殺されているのが、軍事政権が続くミャンマー(ビルマ)である。
ミャンマーには「ミャンマーの新しい灯」という立派な名前の国営新聞があり、ビルマ語と英語で発行されている。筆者はビルマ語は分からないので、同国出張時には英語のこの新聞を手にすることになるが、政府の広報紙そのものと言っていい内容だ。政権幹部の記者会見の翌日には、隣国タイのバンコクから出張取材で来ていた日本人記者団の参加者の名前がご丁寧にもずらりと並んでいたのには驚いた。外国人記者も軍政当局の記者会見に大きな関心を持ち、集まった
ことをPRするのが狙いなのだろうが、いかに中身のない記事であることがこの一点からも分かっていただけるのでないか。

軍政会見を取材する記者
以上は1990年代後半の見聞の一端だが、現在も恐らく同じ紙面内容なのではあるまいか。ミャンマーの国営新聞にしても国営放送にしても、本来の報道活動を続けたい志を持った記者はいるはずだが、軍政当局の厳しい締め付けによって自由な取材活動ができなくなっているのではと推測する。ただ、この国に本来の意味での記者がいないわけではない。
ヤンゴン(旧ラングーン)はかつての首都で、この国では最大の都市だ。ヤンゴンには、外国特派員協会という職能団体があり、国際通信社であるAP通信、ロイター通信、AFP通信のほか、日本の大手報道機関のストリンガー(助手)として働く現地の記者を合わせて十数名が加盟している。閉鎖的なミャンマーの情報が海外に伝えられるのは、彼らの取材活動の結果である。真実を伝えるという記者本来の姿勢がなければ、国際メディアの現地人記者は務まらない。彼らの記事が「ミャンマーの新しい灯」に掲載されるようになれば、この国の将来はもっと明るくなるはずなのだが…。