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第31回 東南アジアで自転車が不人気な理由 伊藤努

第31回 東南アジアで自転車が不人気な理由 伊藤努

第31回 東南アジアで自転車が不人気な理由

東南アジア各国を回ってみて感じることの1つは、自転車があまり普及していないことだ。日本では都会、地方を問わず、自転車を利用している人をかなり見掛けるし、首都圏の鉄道駅では近くに必ず駐輪場があって、朝のラッシュ時などは通勤のサラリーマンらが場所取りに苦労する。最近、隣国の韓国で暮らす知人からも、彼の国では自転車の普及が遅れ、大統領が音頭を取って、環境にもやさしい自転車の利用を国民に呼び掛けていると聞いた。

自転車に乗っていない人の数と反比例する形で、ベトナムやタイなどではオートバイの普及が目覚しい。ハノイやバンコクでは、交差点での信号待ちでバイク族が自動車の手前にあふれるように並び、青信号に変わるや、どっと騒音と排気ガスをまきちらして走り去っていく光景をあちこちで見ることができる。抜群の性能を誇るスズキやヤマハの自動二輪車は、若者たちの憧れの的だ。

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自転車が走っていないバンコク市内

では、タイなどではなぜ自転車が普及しないのか。理由については順不同だが、まず1年の大半が非常に暑い南国とあって、体を動かすことによる体力の消耗は温帯に位置する日本の比ではなく、ペダルをこがなくてはならない自転車の人気が低いことが挙げられる。路線バスやタクシー、自家用のバイク、自動車といった動力の付いた乗り物を選ぶのも自然の成り行きだろう。移動手段としては、タイでは「トゥクトゥク」といった小型の自動三輪車が街中を縦横無尽に走り回っており、自転車代わりに近距離を行き来するのに便利だ。自転車の必要性はまた下がることになる。

第2の理由は、卵が先か鶏が先かという議論となるが、自転車が安全に走れるように道路が造られていない点だ。自転車専用レーンなどというものもない。幹線道路の両側には歩道があるが、歩道は食べ物の屋台や露天商が半ば占領し、人が歩くのがやっとだ。道路の端も駐車した車が数珠状に連なり、自転車が走るスペースはほとんどない。「自転車の肩身」がいかに狭いかが想像いただけよう。

ベトナムでもそうだが、国民の所得水準が上がるにつれ、バイクから乗用車に買い替えていくのが経済発展の通常のパターンで、ここでも自転車の購入意欲には結びつかない。翻って、日本や欧米諸国で自転車の利用者が多いのは、近くまで買い物などに行くのに便利といった実用性のほかに、環境保護にも役立ち、健康にも良いといった背景があるが、各国での自転車普及度をめぐる考察は経済の発展段階や国民性の違いにも関連しているようで、筆者には興味が尽きない。

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