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第554回 テレビカメラマンと放送記者 直井謙二

第554回 テレビカメラマンと放送記者 直井謙二

第554回 テレビカメラマンと放送記者

新聞や通信社の場合は現場に肉薄したいカメラマンと記者が別行動を取る場合も多い。テレビ報道の場合は記者とカメラマンは常に同行し、あうんの呼吸が大切になる。混乱の現場でカメラマンを見失えばレポートが撮れない、つまり原稿がデスクに送れない。さらに重い機材を持っているカメラマンの動きをサポートする必要がある。ファインダーを長時間見つめているカメラマンは周りが見えない。大きなデモなどで危険が迫った場合、撮影を止め、逃げる指示も必要だ。カメラマンと離れてしまい大失敗したことを思い出した。

1985年2月故金大中氏が亡命先のアメリカから帰国した時の模様はすでに書いた。(小欄 第30回金大中と金永三の和解は間に合ったか)全斗煥軍事政権下は国家安全企画部の監視が厳しかった。筆者は運よく治安部隊の制止を振り切り故金大中氏の自宅に入ったが、機材を持つカメラマンのサポートを忘れた為カメラマンは入れなかった。

故金大中氏の自宅に居ながらインタビューもレポートも撮れない。金大中氏の自宅はドアが外からロックされ金氏と同様筆者も軟禁状態になったしまった。金大中氏は筆者に日本語で食事を勧めてくれたが、失敗が頭をよぎりせっかくの食事も喉を通らなかった。カメラマンのいないテレビ記者ほどみじめなものはない。

タイ中部アユタヤの風物詩「ネズミ取り大会」についてはすでに書いた。(小欄第216回 タイ乾季の風物詩「ネズミ取り大会」)レポートの最後には農民が好んで食べる焼きネズミを試食することにした。ネズミの姿焼きの串刺しを市場で手に入ると、レポート前から汗がにじみ出ている。姿焼きを見つめると食べられなくなるので、視界に入らないように足元に置いた。(写真)カメラが回れば勢いで姿焼きをつかみ試食レポートできそうだ。

先輩のカメラマンに注文を付けた。「先輩、仕事だから食べます。でも一度だけです。撮影NGはなしでお願いします」。百戦錬磨のベテランカメラマンも緊張している。「ちょっと待て、深呼吸させろ」。カメラマンの顔を見つめていると静かに頷いた。

「鶏肉に良く似た味です」とレポートした以外は頭が真っ白で記憶がない。レポートが終わったので肉を吐き出したが、気持ち悪さで体が震えた。カメラマンに撮影に問題がないか聞いた。ベテランカメラマンは笑顔を浮かべラッシュ映像を見せてくれた。

レポートが終わってネズミの肉を吐き出し筆者が震えるところまで撮影した見事な映像だった。

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