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第552回 予想を外したミャンマーのクーデター(下)直井謙二

第552回 予想を外したミャンマーのクーデター(下)直井謙二

第552回 予想を外したミャンマーのクーデター(下)

タイの観光キャンペーンでは民族衣装をまとった若い女性が空港で観光客に蘭のレイをかけて歓迎したが、ヤンゴン空港では機関銃を持った兵士が迎えた。観光客は空港で300ドルをミャンマー発行の紙幣に強制的に交換させられ、外資の送金には10%の税金をかけた。観光客は最低300ドルぐらい使うはずだし、外資は利益を上げるはずなので前もって税金を取るという上から目線のやり方だ。筆者も現地記者の給料は取材の折にまとめて手渡した。所詮、武士の商法は成功しなかった。

88年、騒乱後少数民族カレン族支配地区に逃れた学生の一部は数か月後軍政の呼びかけで帰国することになった。学生たちは軍政を信頼できず、外国人記者の同行を求めた。筆者も同行したが、アジアの3大遺跡と称されるバガン遺跡など観光に連れていかれ満足な取材はできなかった。

当時のバガン遺跡は荒れ果てたままで観光事業は無理との印象を持った。追い込まれた軍政は民主化勢力の締め付けを緩め、90年代末には自宅軟禁されていたスーチー女史が自宅の塀越しに演説する姿が確認され、筆者もスーチー氏の自宅でインタビューを取ることができた。多数の市民がスーチー氏の自宅を遠巻きにして演説を待つ姿が印象的だった。(写真)。

もう一つは少数民族の存在だ。アヘンの栽培を巡って国軍と銃撃戦を繰り返すシャン族や軍事力を持つカレン族などを取材したが、少数民族同士の戦闘も絶えなかった。最近では経済的に潤う国軍の支配が進んできたが、国軍を共通の敵として少数民族同士が結束する可能性もある。

民主化勢力は4月末、国民防衛部隊を結成し国軍から市民を守るとしている。民主化勢力と少数民族との連携も考えられるが、88年の時と異なり巨額な投資をした外資を含め経済面での不満が膨らみそうだ。

国際企業は一致して開放と安定を求めている。隣国中国もミャンマーに巨額の投資をしているし、ウイグル族や香港の問題を非難する欧米諸国には内政干渉をするべきではないと反発していることから自ら事態の介入に踏み込みづらい。

最近、裁判中のスーチー氏の映像が流れたが、一定の待遇を受けているようで健康的な姿だった。スーチー氏の呼びかけもあり息の長い反政府運動が続く可能性がある。

外資が撤退すれば30年前までのビルマ式社会主義の時代同様、最貧国に逆戻りするであろう。軍政は軍事力で国民を押さえつけ沈静化する前近代的な手法はもはや通用しないことに早く気が付くべきだ。

《アジアの今昔・未来 直井謙二》前回  
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