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〔33〕南北朝鮮が共有してきた観光地・板門店 小牟田哲彦(作家)

〔33〕南北朝鮮が共有してきた観光地・板門店 小牟田哲彦(作家)

〔33〕南北朝鮮が共有してきた観光地・板門店

第2次世界大戦が終結して以降、朝鮮半島を南北に縦断する旅行は誰もできなくなった。朝鮮戦争によって南北間の境界線は移動したが、境界線そのものが撤廃されることはなく、今年で南北分断から80年目を迎えることになる。

ただし、一気に南北を直通することはできなくても、2回の旅行に分けて韓国と北朝鮮をそれぞれ観光旅行することで、自己の足跡を半島南端の釜山から中朝国境の新義州までつなぎ合わせることはできた。韓国側と北朝鮮側の双方から、軍事分界線上の板門店を訪れるという方法である。

韓国側では、ソウルから特定の旅行会社が主催する板門店観光ツアーに参加すると、共同警備区域(JSA)内にある軍事停戦委員会本会議場に立ち入ることができる。この建物の中央を軍事分界線が横切っており、テーブル上のマイクコードが南北の境界線を示している。このテーブルの北側へ回るときだけ、北朝鮮側へ足を踏み入れることができるのだ。

同じ会議場に、北朝鮮側からも観光客が立ち入ることができる(画像参照)。平壌から古都・開城に陸路やって来た旅行者は、板門店まで専用車で乗り入れる。そして、JSAの会議場の建物に入り、マイクコードがあるテーブルの周りをぐるりと歩くことで、わずかに南側に立ち入ったことになる。

北朝鮮側から見た板門店の共同警備区域

このように、韓国側から入ったときと北朝鮮側から入ったときにこのマイクコードの向こう側へ足を踏み入れることで、それぞれの旅行時の足跡を合わせるとソウル~板門店、平壌~板門店を陸路で移動したことになるのだ。あとは釜山~ソウル間、平壌~新義州間を列車で移動すれば、朝鮮半島を縦断したことになる。事実上別々の国家でありながら、同じ建物内に双方から立ち入ることができる板門店ならではの立地を活用(?)した発想である。

だが、新型コロナウイルスの流行が始まって以降、北朝鮮は外国人観光客の入国を全面的にストップ。韓国側でも板門店ツアーは中断が続き、コロナ禍が落ち着いた後も軍事的な緊張が断続的に高まっていて、外国人観光客が落ち着いて参加できる環境には復していない。

しかも2024年になって、北朝鮮は韓国との統一政策を放棄することを内外に表明。かつては外国人観光客も参観できた南北統一関係のモニュメントなどは破壊された。新型コロナウイルスの流行開始以降、日本人観光客の北朝鮮入国は未だに再開されていないが、南北統一を放棄する新たな国策の下で、北朝鮮が従来通りに外国人観光客に板門店の見学を認めるとは限らないだろう。もともと南北どちらにとっても単なる行楽地でないことは確かなのだが、南北双方の板門店観光が今後どうなるのか、今、冷戦の終結後で最も不安定な状況下にあると言ってもよいかもしれない。


《100年のアジア旅行 小牟田哲彦》前回
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