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第551回 ボート競技をめぐる幾つかの奇縁(中) 伊藤努

第551回 ボート競技をめぐる幾つかの奇縁(中) 伊藤努

第551回 ボート競技をめぐる幾つかの奇縁(中)

前回の本欄では筆者の学生時代のわずかなボート競技体験と、高校の野球部後輩でW大学の漕艇部(ボート部)で活躍したS君の思い出話を紹介させていただいたが、拙稿コラムを読んだそのS君から興味深い感想と近況報告があった。ということで、今回も「ボート競技をめぐる幾つかの奇縁」の続報ということで、S君を含む学生ボート競技では長い伝統と歴史を誇るW大漕艇部OBたちの相も変わらぬ「ボート愛」の様子と、ボート競技の会場や練習場となっている東京およびその周辺河川の時代を経ての移り変わりについても、筆者の見聞を交えて触れてみたい。

 まず、S君から届いた近況報告を兼ねたメールのさわりを紹介する。

 「この度は、ボートの話題を取り上げていただきありがとうございます。私のことまでで書いていただき恐縮で、感謝です。

 昨年4月の隅田川・早慶レガッタのOBレースに参加すべく(結局、新型コロナ禍の影響で中止になってしまいましたが)、昨年2月から京浜地区を流れる鶴見川でW大OB(平均60歳)と毎週日曜日に汗をかいてます。ただそれも、新型コロナ禍で練習もとぎれとぎれですが、一応、1年間続けられました。昨年末には新オリンピックコースの”海の森”でも練習させてもらいました。現在のボート仲間は10年以上継続している人ばかりなので、気を抜くとホント、オールが腹部に食い込む「腹切り」をしそうで、懸命にやっています(;^ω^)。大学漕艇部での現役時代は厳しく苦しいことばかりでしたが、40年たってこうやってまた一緒に漕げる(穏やかな気持ちで)というのは、マイナースポーツの醍醐味でもあるのでしょうか。
 伊藤さんがボート競技にお詳しいのには驚いています。

 このメールに付記したURLにアクセスし、昨年12月の鶴見川ボートマラソン(メンバー表と変わっています。私は4番:進行方向から4番目です)のレース風景をご笑覧ください。ご存知の通り、見た目はのんびり漕いでいるように見えますが、実際は必死でほぼ限界状態なんです」

 以上だが、学生時代は国内トップクラスの漕艇部の猛者も、中年となり、高齢者に差し掛かると、体力も落ち、昔取った杵柄(きねづか)ならぬ「オール」というわけにはいかない様子に思わず苦笑させられた。ただ、「昔取ったオール」を漕ぐ魅力や楽しさが忘れられず、ボート仲間がこうして時間をつくり、一生懸命に練習しているというのはうらやましくもある。

 このS君の近況報告メールを読んで、筆者もよく知る鶴見川のことが出てきたので、S君には面倒をかけるとは思いつつも、次のようなことを問い合わせてしまった。

 「貴兄の大学時代のボート仲間の練習場として鶴見川が出てきましたが、小生は(半世紀以上前の)小学4年までは横浜市鶴見区に住んでおり、通っていた矢向小学校の分校のある鶴見川土手に一時期通っていたことがあります。そのときは、戦後の高度経済成長の時代の副産物である水質汚染など公害が深刻化していた時期で、鶴見川は全国でも水質汚染ではワースト10の上位に名前を連ねるドブ川でしたが、よく知る都県境を流れる多摩川と同様に、水質は良くなっているのでしょうか。そんなことも疑問としてわきました。お時間のあるときにご教示ください。伊藤(拝)」

 早速、S君から次のような返信があった。
 「今はかなりきれいですね。鶴見川も、夏場は乗艇中に川の水をすくって体に浴びせたりしても違和感ありません。透明度はありませんが、沿岸地域の鶴見区・町田市・川崎市も下水率10%に近くなっているということで昔より格段と奇麗になっていると思われます。私も東京湾に近い臨海地区の川崎区育ちだったので、鶴見川というか田辺運河というか、横浜市の潮田中や、鶴見小野あたりはよく行きましたが、高度成長時代の間は、相当な汚れで、水質汚染で伝染病とかに罹った話もよく聞きましたね。

 40年前の隅田川も見た目はさほど汚れてはいませんでしたが、奇麗になったということで、早慶のボート競技対抗戦が荒川から本来の隅田川に復活して4、5年目位だったかと記憶します。ただ、やはり魚が腐ったような臭気があり、漕艇中の呼吸もやや辛く、困惑しました。勝って、陸に上がり、クルーメンバーで隅田川に飛び込む儀式があるのですが、メンバーのうち何人かはその夜、腹を下していました(;^ω^)」

 絵文字入りのS君のメールは現場経験があるだけに説得力があり、公害がまだ深刻だった時代の学生ボート競技者の別の苦労もよく分かった。それにしても、昔はテレビ中継もされた早慶両大の隅田川での対抗ボートレースで、選手が一糸乱れずに川面を軽快に滑るように進む長いボートの優雅な光景の裏には、競技者の日頃の切磋琢磨があったことに改めて思いを巡らせた。(この項、続く)

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