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第536回 新型コロナウィルスがタイのサルに与えた影響(2)  直井謙二

第536回 新型コロナウィルスがタイのサルに与えた影響(2)  直井謙二

第536回 新型コロナウィルスがタイのサルに与えた影響(2)

タイ中部の遺跡と軍の街、ロッブリのサルも新型コロナウィルスの影響を受けている。インド文化を受容するタイではサルは軍神として大事にされ1,000匹を超すサルが街中で人間と共生していることはすでに書いた。(小欄 第124回 人と共生するタイ・ロッブリのサル)30年前に取材したとき1,000匹だったサルは大幅に増え6倍の6,000匹になっている。
その理由は観光ブームとタイの高度成長だといえる。

1987年の「ビジット・タイランド」と銘打った観光キャンペーンの成功以来、観光客は増加の一途をたどり、タイは日本をはるかにしのぐ年間4,000万人が訪れる観光大国になった。高度経済成長で外国人ばかりでなくタイ人の旅行者も大幅に増えた。ロッブリも13世紀に建立されたクメール様式のプラーン・サム・ヨット寺院と人と共生する珍しいサルが相まって多数の観光客が押し寄せた。(写真)

街は観光で潤い、市民は餌を与え、サルのためにお祭りを開き大切に保護していた。さらに奈良のシカのようにサルの餌を売り、観光客は餌のバナナなどを買いサルに与えていた。サルにとっては楽園となり、一気に繁殖した。

ところが新型コロナウイルスが観光産業を直撃した。観光客の姿が消え、餌がもらえなくなったサルが狂暴化した。30年前も取材中に数匹の猿が筆者に飛びついてきたが、かまれると感染症の恐れがあると聞き心配になったことを思い出した。

狂暴化したサルは商店街を集団でうろつき、食料品などを強奪していく。6倍に増えたため糞尿や食べ物のカスが路上に散乱し、車は破壊された。頭のいいサルは水道の蛇口を開けて水を飲むことができるが、飲み終わったあと蛇口を閉める能力はない。水が出っぱなしの水道が目立つようになった。

観光客が減り減収に加え暴徒化したサルによる被害にシャッターを下ろす店も出てきた。新型コロナウイルスで観光客や市民が与える豊富な食糧が減り、人間とサルの共生環境が破綻したようだ。とはいえ軍神として基地内にサルの銅像を建てるほど尊敬の対象であるサルを殺処分するわけにもいかない。

政府は去勢手術や無人島への移送を計画しているという。20年ほど前まで首都バンコクでは野犬が自由に歩き回り、屋台の客から残飯をもらって生息していた。今では街の景観と狂犬病の予防を目的に政府はバンコク市内から野犬を一掃している。日本でも最近は野生のハトへの餌やりを禁止するようになってきた。動物との共生は数が少ないうちは問題ないが、愛らしい姿に惹かれすぎ、共生のバランスが崩れると悲惨な現実を見ることになる。

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