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第534回 新型コロナウィルスがタイのサルに与えた影響(1)  直井謙二

第534回 新型コロナウィルスがタイのサルに与えた影響(1)  直井謙二

第534回 新型コロナウィルスがタイのサルに与えた影響(1)

新型コロナウィルスが世界中に広がりパンデミックを引き起こす中、タイは感染抑制に成功している。政府の徹底した規制や感染を見守る全国的なボランティア活動それに日本をしのぐ観光立国でありながら外国からの観光客の入国を厳しく制限した結果だ。最近では外国から少数の観光客の入国が許可されている。

一方で厳しい入国規制による経済の低迷は人間ばかりでなくサルにまで及んでいる。タイの動物保護団体がサルを使ったココナッツヤシの実の収穫でサルを酷使していると批判した。これに対し7月、タイ商務省などは、ココナッツ輸出産業を調べた結果、サルによるココナッツ収穫が行われている事実はないと説明し、動物保護団体に反論した。商務省などによればサルを訓練してココナッツを収穫しているケースは全くないとは言えないが、ごく一部の業者が観光客を楽しませるアトラクションとして行っているにすぎないと異を唱えた。

ミャンマー国境に近い村でサルの観光業を取材したことを思い出した。この村でもサルを訓練して外国人観光客にショーを見せ観光収入を得ていた。欧米人観光客の靴の紐を結んだり、サル同士でバスケットをしたりして拍手喝さいを浴びていた。その合間に農家に頼まれ副業として時折ココナッツの収穫をサルにさせていた。ココナツの木は背が高く実は上の方につく。危険で厳しいいわゆる3Kの仕事だ。

この仕事は高度経済成長で豊かになったタイの若者には嫌われ、ミャンマー国境に近いことから不法就労で入国したミャンマーの若者が担っていた。時々不法就労者の取締りがあると、農家はしかたなく観光用に訓練されたサルに臨時的に収穫を依頼していた。

サル使いはバイクにサルを乗せ農家に出向く。サルは難なく高い木に登りココナツの実を回してちぎり下に落とす。(写真)ところが新型コロナウィルスの蔓延は事態を一変させた。外国人観光客が入国できなくなりサルを使った観光収入は激減してしまったのだ。

一方、ミャンマーからの不法就労者の取り締まりもコロナ禍で一層厳しくなり農家はココナッツの実の収穫ができなくなった。収穫が困難になった農家と仕事を失った観光用のサルの需要と供給がマッチした。

毎日長時間の収穫作業が続き動物保護団体はサルの虐待だと批判したものと思われる。新型コロナウィルスの感染が長引けば商務省などの観光用のショーの一環という説明も破綻しそうだ。

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